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第三話

「ピアスホール完成したら、つけたいピアス決めてたりする?」


 翌日の放課後、昨日と同じ公園で古屋くんは私の耳たぶをつまんで消毒をしながら、そんな質問をしてきた。


 私は耳を触られているのが、こそばゆくて……でも動かないように頑張っていたところに、彼の声が耳に届いて、ドキドキが我慢の限界すぎて少しだけ身をよじる。


「んーん。決めてない。本当に突然思いついて実行したというか……」


 消毒はもう終わったというのに、古屋くんは私の耳から手を放してくれない。


「そういえば、透明のピアッサーなかったのに我慢できずに、チタンのピアッサー買って自分で開けたんだもんね」


「我ながら後先考えてなさすぎだよねぇ」


「うん。イメージと違って、三崎さんオモロってなった」


 ようやく耳から手を離してくれた。消毒液の容器を彼から受け取る。古屋くんはまだ私の耳を見ていた。そして、「んー」と言いながら首をかしげる。


「オレさ、趣味でアクセサリー作ってるんだけど」


 藪から棒にそういうと彼はポケットからスマホを取り出した。そして、カメラロールにある作った作品の写真を見せてくれる。写真には、メンズ向けの指輪やペンダントトップ、ピアスが映っていた。


「え。すごくない? これ。普通にお店に売ってそう」

「えへへ。マジ? 照れる。叔父さんが銀細工の職人で、教えてもらってて」


 あまりのクオリティの高さにビックリして、お世辞抜きに褒め言葉が口から飛び出してしまった。


「……あのさ……できたらでいいんだけど、三崎さんのピアス作らせてくれないかな? もちろんデザインとか希望叶えるし!」


「それはすごく嬉しいけど、私お小遣いだけだし、あんまりお金払えないよ……」


 古屋くんの作品は明らかに駅ビルとかにあるバラエティーショップのアクセサリーのような値段では買えなさそうなものだった。


「いやいや、お金はいらない! これはプレゼント。その代わり制作例として使わせてほしくて。いまは作っても自分で使ったり、姉ちゃんにあげたりくらいなんだけど……」


 彼はスマホで人気のSNSアプリを開くと、自分のアカウントを見せてくれた。ジュエリー作りの日々をつづっているようだ。


「ゆくゆくは作品のネット販売、始めたいんだ。オーダーメイドとかもしたくて。でも制作例がメンズものばっかりでさ。姉ちゃんもゴツいのが好きで。三崎さん、可愛い感じのアクセサリー好きそうだったから」


 なるほど。プロモーション的な。


「でも、それだけで本当にタダでもらっちゃっていいの?」


「その……できたら……その……着用してる写真を使わせてほしい! 顔は嫌なら映らないようにするから!」


 両手を合わせて「お願い」と古屋くんはポーズを取る。


「顔見せなしなら全然いいよ。でも、古屋くん、男女問わず結構友達多いよね? こんなに素敵なアクセサリー作れるなら、女の子みんな喜んで引き受けると思うけど」


 私の疑問に彼は気まずそうに眼をそらす。なんだろ?


「……キモいって引かれそうで、あんまり言いたくないんだけど……三崎さん、耳の形かわいいから……ぜひともモデルを……お願いしたく……」


 予想していなかった回答に私は髪の毛で耳を隠す。たぶん、私いま顔真っ赤だ。顔が熱い。でも、問題発言をした古屋くん本人もかなり照れくさそうに口元を隠して目をそらしていた。


 ちょっと気まずくなって、二人とも黙り込む。古屋くんが「遅くなると危ないから」と言って立ち上がり、私もそれに続く。彼と駅まで歩いて、路線が違うので、そこで別れた。



 帰りの電車の中でメッセージが届く。


【古屋匠海】

『明日、叔父さんの工房が出してるカタログ持ってくるから。あと、バーベルとか、ポストの形とか。ってわからないかもしれないけど、とにかく、アクセサリーのパーツカタログもいろいろ持ってくるから、一緒に見よ!』


 いつもは短文というか、単語でポツポツ送ってくる彼にしては長い文章だ。思わず、私が「長文!」って返したら、


【古屋匠海】

『メモ帳に書いてから貼った』


 って返ってきて、電車内なのに座り込みそうになるほど、彼の可愛さに萌えてしまったので、ウサギが感動でウルウル、キラキラしてるスタンプを返しておいた。

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