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第一話

 オレンジ色の夕日が差し込む放課後の誰もいない教室。


「お願い! 誰にも言わないで!」


 私は向かいに座る古屋くんに向かって、目を閉じて両手を合わせると、拝み倒した。


 ついさっき日直の日誌を書きながら、ピアスを開けたのを忘れて髪を耳にかけてしまったのだ。うちの学校はピアスでは校則違反だった。

 先生にチクられたら、どうしよう。不安でソワソワしてくる。


「……別にピアスくらい普通だと思うけど」


 古屋くんの予想と違う反応に私はビックリして目を開けた。


 彼は「んー」と首を傾げ、そのあと男性にしては長めの髪をかきあげる。ツーブロックの刈り込みと耳が露わになり、それを私の方へ見せてきた。


「こういう透明なラブレットスタッドのピアスなら目立たないよ」


 古屋くんの左耳には軟骨一か所と耳たぶ二か所の計三か所もピアスがついていた。全然、気がつかなかった。って、古屋くんちゃんと話すの今日が初めてなんだけど。


 彼はなんてゆーかヤンキーとか不良って感じではなくて、でもいつもさりげなく髪型とか制服の着崩し方がオシャレで、男子の中じゃ物静かな方だけど浮いてる様子もなくて、ちょっと不思議な存在だった。


 同じ校則違反をしていることに安心した私は、先ほど慌てて隠したピアスを今度はちゃんと見せるように、古屋くんの方へセミロングの髪を耳にかける。


「これファーストピアスで……まだ開けたばっかりだから、外せなくて。本当は透明のピアッサーが良かったんだけど……ドラッグストアで売り切れてて……」


 するっと古屋くんの手がこちらに伸びてきて、思いの外その手が大きくてドキリとする。高校生になったら、急に周りの男子たちが大きくなってしまって変な感じ。


「触っていい?」


 もう触られるつもりでドキドキしてたら、触れる寸前の距離になってから、彼は手を止めて、そう聞いてきた。また首を傾げている。クセなのかな。ワンコみたいで可愛いと思ってしまう。私は彼の問いかけに小さく頷く。


 横を向いて彼が耳を触りやすいようにしていると、そっと彼の指が耳のフチを撫でた。ひんやりとして心臓がバクバクする。きっと顔赤いかもと思い、古屋くんの方を見られない。


「熱持ってる。腫れてるし。自分で開けたの? 病院?」


「自分で開けた。やっぱ、これ腫れてるよね」


「消毒はちゃんとしてる?」


「一応、お風呂あがった時に消毒液かけてるけど、上手くできてないかも。ドバドバ見当違いなところにかかってて、どっちかっていうと肩を消毒してるのに近い……」


「ふふ。三崎さんって面白いね。ちょっと意外」


「え、意外かな。恥ずかしい……」


 私はサイドの髪で耳をおおう。


「あ、でも悪い意味じゃないよ。いつも学級委員長とかテキパキこなしてるのしか見たことなかったから。ピアスの消毒に四苦八苦してるの想像したら面白かった」


「もう、ほんと恥ずかしいぃ〜」


 髪の毛の上から耳を押さえて、嘆く私を見て古屋くんはまた笑う。


「ごめん。ごめん。あはは。お詫びにピアス用の消毒液、使いやすいの教えてあげるよ。日誌書き終わったら、ドラッグストアいこ」


 彼は机に転がっていたキャップ部分が可愛いイヌの形をしている私のシャープペンシルを拾い上げると、日誌の続きをちゃっちゃと書いてしまった。



◇◇◇



 駅前にあるドラッグストアと雑貨店が合体したバラエティーショップに立ち寄る。男の子と放課後に二人で出かけるのが初めてでソワソワしてしまう。ピアスコーナーで古屋くんがピアスホールのケア商品を選んでくれている間、私はピアスを見ていた。


 両耳用が多いなぁ。片耳用だと結構ゴツい。どうせならカッコイイのよりは可愛いのがいいな。やっぱりもう片方も開けた方がいいかな。毎月のお小遣いが五千円の私からすると、ピアスの穴を追加で開けるのも、ピアスを買うのもお財布がなかなか厳しい。


 そんなことを考えながら、いくつかピアスを手に取って見ていたら、ピアスホールの洗浄と消毒が一緒にできるケア商品を手に持った古屋くんが戻ってきた。


「このタイプがいいよ。ちょっとドロっとしてる消毒液だから、ピアスのバーベルのところに何滴か落とす感じで使うの」


「バーベル?」


「ピアスの棒のところ。でも、三崎さんまだ開けたばかりなんでしょ? あんまりバーベル前後に動かすと、ピアスホールが安定するのに時間かかっちゃうから、なるべく触らないように気をつけた方がいいよ」


「膿んでそうで、気になって何度も鏡見ながらピアス動かしちゃったかも」


「本当に膿んじゃったら、皮膚科にちゃんと行こうね。ほっといちゃダメだよ。約束」


 指切りを求められて、ドキリとした。男の子と指切り……どころか、こうやってスキンシップなんて小学校以来な気がする。


「うん……」


 私は恥ずかしかったけど、彼の小指に指をからめた。

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