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4王子との出会い

 かつて、初代ルクセント国王は精霊と大規模な契約を交わしたという。

 王国と、そこに生きる民の永遠にわたっての守護。

 それにどんな対価があったかは定かではないが、当時魔物に苦しむ王国は精霊との契約に成功することで暗黒の時代を乗り切った。

 その際、精霊はルクセント国王にとある伝言を残したという。曰く、契約の証である「世界樹の紋章」をその身に宿した女性と手を取り合え、と。

 その伝承は長く建国神話として王国に語り継がれてきたものの、今も契約の証を持つ女性は生まれていない――はずだった。

 その女性は建国神話に一切興味がなかった。契約の証を、人目に触れさせてはいけない「精霊のいたずら」だと誤解し、隠してきた。

 その女性は――何を隠そうわたしのことらしい。

 レイニー伯爵に特別に借りた部屋で、アマーリエは慌てた様子でわたしが置かれた状況を語ってくれた。

 わたしの手の甲にあるのは精霊から嫌われた証ではなく、むしろその逆。精霊の祝福とも呼べるような印だという。そして、契約の証を持つ者は国王の伴侶となって契約を遂行しなければならない、らしい。

 つまり――

「わたしが、王妃になる?」

 そういうことだった。いやまってどういうこと?

「そうね。正直、わたくしもまだ夢を見ているようだわ。建国神話に登場する契約の証を、まさかこの目で見ることができるなんて思わなかったもの」

「それはわたしもだよ」

「つい先ほどまで建国神話なんてろくに知らなかったのによく言うわね。魔法が好きで魔法の訓練や狩りには貪欲なのに、精霊信仰の根幹にある契約の話を知らないんて、この国の貴族とは思えないわね。……それにしても、クローディアが王妃、ねぇ?」

「……違和感しかないよね」

「そうね。正直違和感だらけよ。でもこうして考えてみると、クローディアのふてぶてしいまでの肝の据わりっぷりは妃にふさわしいかもしれないわね」

「わたしはそんなんじゃないよ」

「何を言っているのよ。魔物が出たって聞いて『見てみたい!』って飛び出していくような令嬢を、わたくしはクローディア以外知らないわよ」

「それは肝が据わっているというよりは異常なんじゃない?」

「そうね。でも次期王妃に異常だなんて言うと不敬だからやめておくわ」

「言ってるじゃん。まあ気にしないけれど。……それより、本当にわたしが王妃にされるの?冗談じゃなく?」

「冗談でこんなことは言わないわよ。いい?詳細は不明だけれど、クローディアは精霊に選ばれた女性なの。つまり、初代ルクセント国王陛下に等しい高貴な身分ということになったのよ」

「木っ端男爵令嬢なのに?」

「そうね、木っ端男爵貴族なのに、ね」

 顔を見合わせて、それから二人でどうしてこうなったと天井を仰いだ。正直、まったく心がついていかない。

 天に手を伸ばすように右手を持ち上げ、天井の明かりを掌で透かし見る。その手の甲にある世界樹の紋章があるからわたしは王妃になる――

 じくりと、胸が痛む。これが、そんな御大層なもののはずがない。これは、私をキズモノにした、忌むべきもののはずなのだ――

「え、待って?王妃って、誰の?」

「アヴァロン王子殿下でしょうね。かのお方はまだ王子だから、王子妃ということになるわ」

 二十や三十も年齢が違う現国王陛下の妃になるという可能性が否定されたことに安堵して。けれどすぐに、告げられた名前を咀嚼してわたしは驚愕に腰を浮かせた。

「……ちょっと待って。あの殿下と結婚するの?氷の王子と?」

「不敬なことを言わないでよね。……そうよ。貴女はアヴァロン王子殿下と結婚するのよ。すでにエインワーズ様が挙式の準備に動いているわけだし、早くて今月中に式を挙げることになるかしら」

「今月!?」

 結婚ってもっとこう時間がかかるものじゃないだろうか。特に王子様の結婚ともなれば他国の偉い人とかにも招待状を送って……いや、むしろ早いほうが参列者が減っていい、のかな?今から胃に穴が開きそう。

「……まず間違いなくわたくしよりも早い結婚になるわね。まさかクローディアに先を行かれるとは思わなかったわ」

「わたしも思わなかったよ」

 ソファの背もたれに深く体を預けてため息を漏らす。

 ひょっとしたら、こうして気を抜いた姿をさらすこともこれからはできないのだろうか。だって、わたしは一か月後にはあのアヴァロン殿下の妃になっているのだ。

 あの、直視するだけで死を感じずにはいられない殿下の妃だなんて、わたしに死ねと言っているのだろうか。

 すでに生きた心地がしない。

 わたしは、彼に切り殺されるのだろうか……されそうだな。だってアヴァロン殿下、わたしのことをすごく嫌っているように見えたし。

 いや、どちらかといえば無関心、だっただろうか。自分の妃になる人への対応としてはひどくそっけなかった。

 氷の王子様は伊達じゃないみたいだ。

「まあ頑張りなさい。わたくしも時折足を運んであげるわよ。結婚したらわたくしも王都に住むことになるわ。エインワーズ様と一緒に様子を見に行ってあげるから、少しは余裕を取り戻しなさい」

「……エインワーズ様を愛称で呼ぶ余裕もないくせに」

「それとこれとは今は関係ないでしょう!?」

 応接室に響くアマーリエの叫びに、少しだけ心が落ち着いた。

 そうだ、わたしは木っ端貴族だ。王族の命令を拒否することはできない。つまり、この婚姻から逃れるすべはない。

 氷の王子様と結婚、かぁ。正直、少し前の自分では想像もつかなかった。だって順当にいけば次期王妃だ。王妃なんて、わたしに務まる気がしない。

 きっと片時も気が休まらないのだろうな。そんなことしか考えられない。王妃って、何をするのだろう?

「……はぁ」

 とりあえず実家に帰りたい。お父さまとお母さまとも今後のことを相談しないといけないし、お兄さまにも先に結婚の報告をしておきたい。じゃないと、噂を耳にしたお兄さまが家に突撃してきそうだ――

「ディア、ディア!」

 その時、焦燥をあらわにしたお父さまが扉を蹴り破るように部屋へと駆け込んできた。顔が真っ青なお父さまは、わたしの無事を確認してパクパクと口を開閉させる。

 噂には聞いていたけれど、アヴァロン殿下は相当に悪い意味で有名らしい。氷の王子、あるいは、血染めの王子。それは、魔物や貴族の返り血で真っ赤になったアヴァロン殿下を端的に表現した言葉だ。

「無事かい、ディア?なぜだかディアがアヴァロン殿下に目をつけられたという話を聞いて気が気じゃなかったよ。ねぇ、殿下の婚約者になるかもしれないなんていう眉唾な噂を耳にしたのだけれど、質の悪い冗談だよね?ディアがお妃様になるなんて、そんなことないよね?」

 自分より動揺しているお父さまを見て、余裕が戻ってきた。うん、今更じたばたしてもどうにもならないのだから、ここはどっしりと構えておこう。とりあえず、まずはお父さまを静かにさせるところからだろうか。

「本当よ、お父さま。正確には、わたしはアヴァロン殿下と結婚するらしいわ。クローディアが言うには、ひと月と立たずに結婚式を挙げることになるらしいよ」

「な、なんだってえええええええええええ!?」

「うるさいわ、お父さま」

 耳を抑えるクローディアを見ながら、わたしは思わずお父さまの頭頂部に手刀を叩きこんだ。

「ディア!あなた一体何をしたの!?」

「……てい」

 柔らかなカーペットにその身をうずめたお父さまが意識を失ったのと当時に、今度はお母さんがやってきて、同じようにその体がカーペットに沈んだ。

「……親の背を見て子どもは育つのね」

「それ、どういう意味?」

 クローディアはそんなわたしたちを見ながら、何やらしみじみとひどいことを言っていた。


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