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6話

タイトル変わりました。

「特別授業・・・・・・ですか」

「そうそう。ま、軽いものだからあんま気にしなくてイイヨ!」

「そういうのって、大体が軽くないパターンじゃないですか」

「天邪鬼だなあホシ君は!・・・・・・ま、実際はキミにとってはもしかしたら重い話になるかも」



やっぱりか、と言わんばかりのため息を吐く星水だったが、話を聞く姿勢はみせる。



「まあ、聞くだけ聞きますよ」

「じゃあ単刀直入に聞いちゃうけど、ホシ君ってゼロ君に劣等感を抱いているよね?」

「・・・・・・」

「あれ?!図星だった?いやあ、相手の心が読めちゃうとか私ってば天才だね~」



白々しい、と思いながらも言い返すことができなかった星水は、せめてもの抵抗のつもりなのかタブーをにらみつける。



「・・・・・・!」

「で、そこんところどうなんだい?」



だが、タブーは気にすることなく軽い雰囲気で質問してくる。



「そりゃあ気にするでしょう、だってゼロはブラックホールとかいうチート能力をもってるくせに、対して俺はなんにもないんですよ」

「ウソだね。その理屈が通るなら、私にも嫉妬するはずだ。だけど君はゼロ君にだけ劣等感を感じてるように見える。まあ、私の観察眼がマヌケで実は君の言い分が正しかったって場合もあるけどね!」


<人間。私には君の悩みが分からないが、抱え込むのはあまり推奨できない>


「ま、悩みなんて人に話しづらいものだから強制はしないよ。ただこれだけは伝えておく、私は君がどんな悩みや価値観をもっていたとしても絶対に笑わない。約束しよう」



先ほどまで軽い雰囲気で話してたタブーが急に低い雰囲気で話す。



「なんか・・・・・・ゼロが輝いて見えました」

「ふむ」

「外の世界にでたいとか目標もったり、毎日勉強して一生懸命に生きてる感じがして」

「まあ、そうだね」

「・・・・・・」



話せば話すほど、星水の顔はうつむいていく。



「それで、ホシ君はどうしたいんだい?」

「そりゃあ・・・・・・とりあえず勉強かな?」





「なんでそんなことしなきゃいけない」

「え」





タブーの言葉に、うつむいていた星水の顔が上がる。



「だって興味はないのだろ?」

「でも、頑張らないと・・・・・・」

「頑張ったその先に何がある?」

「え、いや・・・・・・」



星水は言葉がつまってしまう。



「目的のために勉強するのはいい。興味があるから勉強するのもいい。だが、やる意味もなく、やりたくないのにやってもどうしようもないだろう」

「・・・・・・」

「ホシ君のいた世界では義務教育があっただろ?あれは極論を言ってしまえば高校と大学に進学するための手段でしかない。君は多分、努力とは楽しくないことをやるものだと勘違いしてるんじゃないか?」

「・・・・・・」



何も言えなかった、ただタブーの言葉が自分の頭に重くのしかかってくる。



「別にその意見も否定しないけどね。嫌なこと、ツライことを耐えた先にある目標に向かって頑張るという意志は、私個人としても感心する」

「じゃあ」

「でも君、自分の目的が分かってないじゃん」

「あ・・・・・・」

「先ずは君が何に苦しんでいるのか、そして人生の目的はなにか?これを明らかにしなければ、先には進めないよ?」



頭がくらくらする。そんなものなんて・・・・・・



「ないですよ」

「いや絶対にある。生きているなら絶対にあるのだよ」



じゃあ俺にはないな。だって1回は死のうとして・・・・・・あれ、なんで俺は生きてるんだっけ・・・・・・俺はただ、



「ただ、生きたいだけで、こんなの誰にでも—————」

「なんだ、目標あるじゃないか」

「え?」

「よし、これであとは君が抱えてる苦しみさえ分かれば—————」

「ちょ、ちょっと待ってください!」



話を進めようとするタブーを彼は必至に止める。



「ん?どうした、もしかして具体的な生き方でもあるのかい?」

「いや、そうじゃなくて!」

「ん~?」

「・・・・・・平穏に、不安もない安定した生活」



なんだ?やめろ!こんなこと言ってなんになる!こんな目標もなく、夢もなく、ただ漠然と生きたいとか—————



「うむ、ちゃんとした目標じゃないか」

「・・・・・・こんなんで、いいのか?」



そんな自分なんか—————!!



「いいに決まってるじゃないか、それが君の目標なら。というか今の君の生活がまさにそれだよね?じゃあいいじゃないか、ハイ問題解決」

「いや、そんなニートみたいな生活」

「ん?でも君、食料を調達するための農作業とか手伝ってくれるじゃん」



ああ、そっか、俺は—————



「俺、自分のことが嫌いだったんだ。夢もなく目標も持てないような自分が」

「それが君の苦しみか。でも良かったじゃないか、君には平穏な日常という目標であり夢があるのだから」



気づけば、自分の顔から涙があふれていた。


その涙がなんなのか分からなかったけど、こんな情けないことで泣いてる自分が嫌になって、色んな感情でぐちゃぐちゃになった涙がどんどん溢れてくる。



***



あれから少しの間だけ泣いた星水は、まるで懺悔するように語り始める。


こんな胡散臭いオッサンをシスターに見立てて懺悔するとか終わってるなと自虐しながら、



「でも、なんだか申し訳ないんです」

「なんだろう、悩みを打ち明けてくれてるはずなのに、なんだがすごく失礼なことを思われた気持ちは・・・・・・」

「だって、俺みたいな人間がこんな不安もなく楽に生きている現状が、だって他の人たちは頑張って生きてるっていうのに・・・・・・」

「あ、無視されちゃった感じ?別にいいけどサ・・・・・・でも、難儀な性格に生まれたねホシ君。今まで大変だったろう」



2人が話す光景はまるで、孫の悩みを聞くおじいちゃんのようであった。



「はは、めんどくさい性格ですよね」

「いや別に?そういう風に生まれただけなんじゃないのかね」

「・・・・・・」



ここまでの会話は、星水にとって新鮮なものだった。


今まで生きてきたなかで作られた常識、他人に言われた価値観がひっくり返されるような思いだった。



「で、話を戻すと、君の今の苦しみは自分が嫌いなことで、色々な要因があるとは思うが、現時点では己が運よく生きていることが嫌いで、しかもそれに甘えて努力しない自分、かな?」

「・・・・・・はい」



星水は自分がなんとなく思っていた部分を、詳細に言語化された気がした。



「なるほど。まあ、そう言ったところで所詮は時代遅れのオジサンの言葉じゃ、今の若い世代とは合わない可能性があるよねえ・・・・・・あ、泣きそう」

「ははは・・・・・・」

「ま、一応アドバイスはするさ、老人の言葉だと思って聞き流してもいい・・・・・・人生なんて所詮は運で構築されてるものだよ」



・・・・・・・・・いやいやいやいやいや、何を言ってるんだ?!と星水は目の前の老人の言葉が理解できなかった。



「それは、さすがに聞き流しますよ?」

「ハッハッハ!それは自分で言っておいてなんだけど、悲しくなっちゃうなあオジサン・・・・・・」

「一応、理由とかあるんですか?」

「ふむ、よろしい。ならば君が人生において運がない点はどこか言ってみなさい、私はそれに反論してみようじゃないか」



タブーは椅子を星水の向かいに持ってくると、彼は星水と対面する形で座った。



「じゃあ、先生は頭がいいですよね」

「そうだね、記憶力がいい脳みそを持ってて幸運だったよ」

「?!で、でも先生って昔から勉強してたんですよね!」

「うん。勉強が大好きな性格に生まれて私は運がよかったよ」



なんだよ、なんだよそれ、と星水は言い表せない感情が浮かび上がってくる。


・・・・・・違う、言い表せないんじゃない。言ったら、今までの悩みが、悩んできたことが、



「めっちゃ体術とか戦闘がうまいじゃん!」

「センスある体で生まれて幸運だったねえ」

「でも戦闘の努力は嫌いって言ってたじゃん?!」

「あ、私は嫌いなことに耐えて努力できる性格に生まれてたから」



やめろ!考えるな!こんなこと!!



「・・・・・・自分が夢を持てなかったのは?」

「さっき夢はあったこと分かったじゃないか、と煽りたいところだけど、そういう意味で言ったわけではないようだね。うん、運がなかったね」

「自分が努力できない人間なのは」

「そういう性格、もしくは興味のあることに出会えなかった。運がなかったね」

「俺の今までの不幸は・・・・・・俺の能力不足じゃなくて?」

「勉強が努力できない性格、社会と合わない性格、それに環境に恵まれなかったとかね、後は・・・・・・人との縁に恵まれなかったとかね。ま、運がなかったね」



なんなんだ、なんだよそれ、



「は、ははははは!じゃあ、あれか?!オレが情けないのも運が悪かったってことか?!」

「そうだよ、もしも君が自分自身に原因があったことで、不幸な目にあったと思う出来事があったのなら。極論を言ってしまえば環境に恵まれなかった、自分の才能がなかった・・・・・・そういう生まれじゃなかった、運がなかった」

「それじゃあ、俺は・・・・・・」

「うん、一言で片づけてしまうなら、()()()()()()



涙が、止まらなかった。



「・・・・・・ほんとに?」



星水が絞り出すように呟いた言葉は、まるで幼い子供が許しを請うかのようであった。



「罰せられると思った?ざ~んね~ん、これに関して言えば君の能力に関してはなんの落ち度もありませ~ん!ただ運がなかっただけで~す!!」



先ほどまでの真面目な雰囲気はどこへやら。いつものピエロのようにふざけるタブーに戻った。



「は、ははは!いいのかなあ?!こんな、俺で!!」

「ふむ、それじゃあ最後にオジサンからのおせっかいだ。()()()()()()()()|、()()()()()()()()


「はは!どうやってですか?俺って自分が好きになった瞬間とかないんですけど」

「自分のダメな部分を、例えば努力できないことを自分のせいにするのではなく、努力できない性格に生まれてしまった不運だと認め、そしてそんな自分を愛しなさい。そうすれば、少しは楽しく生きられるようになるさ」



ああ、いいのか。そんな風に生きて。そんな自分勝手で、生きてもいいのだろうか?


でも、そんな風に生きられたのならば、それは・・・・・・



「最高じゃないっすか、それ・・・・・・」



***



「少しはホシ君の期待に少しは添えられるものだったかな?」

「うす!」



少しどころではない、自分の人生を変えられたと思うほど感激した星水だったが、それを正直に目の前にいる胡散臭い老人に言うのはなんか負けた気になるのでやめた。



***



部屋を出た星水は、無性に外に出て夜空を眺めたくなった。



<人間。君の悩みは解決されたのか?>


「ああ!なんていうのかなあ?そう、俺って今日に生まれたんだなあって感じだ!」


<ふむ・・・・・・人間の言葉は難しいが、君の悩みが解決したのならばよかった>


「・・・・・・うん、俺も自分で言ってて何を語ってんだろうって思う」



我に返った星水は、先ほどまでの自分のハイテンションを振り返って恥ずかしくなる。



<すまない。私は君と一心同体と言っておきながら、君の悩みを解決できなかった>


「ん?ああ、いいよ。俺の悩みって結構めんどくさいし、あんま人から理解されなさそうだから・・・・・・そうか、俺が先生と会えたのって、ラッキーだったのか」


<そうか、やはり彼はよき先生だな・・・・・・>


「?、ああ・・・・・・アクマにも会えてラッキーだと思ってるよ、俺は。お前がいなきゃ俺は死んでただろうし」



なんとなくアクマが寂しそうに思えた星水は感謝を伝える。



<そうか、ありがとう>



いつもの感情が読みづらい平坦な言い方だったが、心なしか少しだけ喜んでるように感じた。



***



外に出ると、そこには空を見上げていたゼロがいた。

穴の底の世界はいつも日の光が届く時間が少ないので寒いが、今日は月の光も体を温めてくれているようだった。



「お、ホシも月を見に来たのか?」



星水がゼロとの劣等感で悩んでいたことなど、もちろん当の本人は知ってるわけではないので、親友のように気軽に話しかける。



「まあな」



別に星水も特に思うところがあるわけでもないので、いつものように気軽に返事をする。



「明日さ、ワクワクするよな!」



ゼロは明日、ここを出ていく。外の世界を見に行くために。



「はは、すごいな、ゼロは」

「ハハ、なにいってんだよ?」



ああ、ダメだ。

割り切ったつもりでいても、やっぱ何かに向かって一直線に走るゼロを見ると少し嫉妬する、と星水は思った。



「まあ、なんだ・・・・・・早く寝ろよ」

「おお、ホシもな」

「・・・・・・ん?」



なんか、話が噛み合ってないような、



「ん?、って、ホシも行くだろ、外」

「え?」

「ええ?お前、明日は行けないのか?なんだよ希望で胸が躍ってるっていうのによ」



まさか、と星水は察する。



「俺も、明日、一緒に行っていいのか?」

「当たり前だろ?親友なんだから」



***



「先生!!!」

「うわっちや?!ホシ君!突然の大声でどうしたんだい?!」

「俺、行くよ!!」



星水が息を切らしながらタブーの部屋に入ってきた。



「話の内容が結論からなので、まったく分からないのだけど?!あと、急な大声は老人の心臓には悪いから勘弁して?」

「俺さ!安定した生活がしたいって言ったけどさ!」

「あ、私の心臓に関しては無視しちゃう感じ?!」



星水は興奮しているせいか、言葉がうまくまとまっていなかったが、そんなことを気にする様子はなかった。

ただ、自分の考えを言葉に表現したくてたまらない様子だった。



「俺もゼロと一緒に外に出たくなった!アイツに誘われただけでさ!なんか自分の意思で動いてないように思われるかもしれないけど!()()()()()()()()()()()()!!」


「・・・・・・クッ!フッフッフ!・・・・・・はっはっはっはっはっはっ!!!」



星水の言葉にタブーは大笑いをした。


しかし、その笑い声は人を侮辱するような笑いではなかった。

それは、無茶苦茶な発言が面白かったのか、それとも、自分の予想を上回る発言にか・・・・・・とにかく彼は子供のように純粋に笑った。



「やっぱ、変ですかね」

「いや、それが君の意思なのだろう?ならば私に止める権利はないヨ」


「ありがとうございます!」



星水は90度の丁寧なおじぎをした。



「ふむ、ならば1つアドバイスだ。君の意思はキミだけのものだ。君の自由にやりなさい。私の心配など無用だよ」

「はい!でも俺、先生には恩返しもしたいんで、いつかは戻ってきます!」

「ハッハッハ!ホシ君は真面目なのか不真面目なのか分からないな!面白い!」


「なんか欲しいモノとかあります?」

「あ、じゃあおまんじゅうがいいね。あんこが入ってるやつ」

「はは、おじいちゃんみたいで、お似合いっすね」

「うん、やっぱり君も生意気に育ったな!」

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