5:他人との比較
もっと簡潔にする予定が、思ったよりも長くなってしまって物語の展開がまり動いてないですが、よかったら見てくれると嬉しいです。
<あれから1ヶ月。ここでの生活にも慣れてきたか?>
「そうだなあ・・・・・・まさか自分がスラムみたいな生活をするなんざ、日本にいた頃は考えもしなかったなあ」
<とはいっても、生きるための衣食住は揃ってはいるのだから、困ることはないな>
「たしかに。そういわれると俺はずいぶん恵まれてる。それに、むしろ今の生活の方が生きやすくていいしな」
<へえ?面白い話だな。君がいた異世界の「二ホン」という国は治安もよくて、娯楽も豊富だったと聞いたが?>
「ああ・・・・・・なんて言うのかな、こんなことを言うのは失礼なんだけど、日本にも生きていくのに日本なりの苦労があったんだよ。それで1回は自殺しようとしたんだけど」
<聞いてもいいか?もし君に嫌な思い出があって、それを話したくないのならば聞かないが>
「まあ、くだらない理由だよ。就活、っていう仕事探しみたいなものに失敗してさ。周りの人たちはみんな働いてるのに俺だけ何してんだろうって」
<疎外感、みたいなものか?>
「・・・・・・多分、自己嫌悪だと思う。俺は別に1人でいることが結構好きなタイプだったから。でもまあ今にして思えばバカもいいところだよ。別に就職に失敗しても、バイトとか国の保障とかで最低限は生きていけるっていうのにさ。笑っちゃうだろ?」
<?、今の話に笑う要素があったか?>
「え・・・・・・だって、別に就活に失敗しても生きていけるのに、なんか人生に失敗したとかで死のうとして・・・・・・世の中には色んな方法で生きてる人もいるってのに、バカみたいで・・・・・・」
<私には就活というものはよく分からないが、少なくとも君は失敗したことで心に傷を負ったから1回は自殺しようとしたのだろう?>
「・・・・・・くだらない理由でだよ」
<?、理由なんてどうでもいいだろ。君は自殺を決意してしまうほど苦しんだのだから。なら、私から言うべき言葉はこれだ・・・・・・大変だったな、お疲れ>
「なんで・・・・・・こんなバカみたいな理由で死のうとした人間に・・・・・・」
<いやだから、君が苦しんだ人間だからだ。なんで苦しい思いをしたのに、これ以上の罰を望むんだ、非効率的だ・・・・・・いや、私が人間を励ました理由を知りたいのか?>
「・・・・・・フッ、ははは!別にそんなこと聞いてないよ・・・・・・!」
星水はなんでか分からなったが、無性に笑いたくなっていた。
<そうか・・・・・・ちなみに理由としては、私が人間の「気づかい」というものをマネしたくなったからだ。どうだ?私は気づかいができていたか?>
「え?・・・・・・あー、どうだろう・・・・・・」
「おーい、ホシ!はやくこっちこいよ!」
「あ、いま行くわ~」
遠くからゼロに呼ばれた星水は彼の元に向かうことにした。
***
~1ヶ月前~
「さてこれから君たちの先生になります、タブーです。シクヨロ!」
白髪と白髭が特徴的な老人、タブーは椅子に座ってる星水とゼロの前に立った。
「・・・・・・」
「よ、よろしくお願いします!」
「うん、元気な挨拶だな変な服装の少年!それに対してキミは挨拶ナシかいやさぐれ少年!あ、もしかして私に完敗したのが悔しかったかな~?」
タブーはニヤニヤした顔で杖の先端を使い、ゼロの頭をポンポンと軽く叩く。
「そんなんじゃねえよ。そもそも授業ってなにすんだよ、そんなことしても無駄だろ」
「まあまあ、ものは試しってことで。それに人生なんて無駄なものなんだから、どうせなら無駄を突き詰めるべきだと私は思うね」
「あっそ」
ゼロは興味がないといった様子でタブーからそっぽを向く。
「勉強って本が読めるんだよ?」
「?!、マジか!ならさっさと教えろクソジジイ!」
しかしタブーの言葉に目を輝かせるゼロであった。
「ハハハ!オジサンは若い子にジジイとか言われると落ち込んじゃうから止めてくれないかなあ?!それはそれとして学習意欲はあるな!面白い!君はどうかな?変な服装の少年!」
タブーは愉快に笑いながら星水に尋ねた。
「あ、自分は勉強とかに全然興味がないです!」
「ハハハ!不真面目そうに見えてやる気のあつ少年と、真面目そうに見えてやる気のない少年か!正直に言って君たちのイカレぐあいに、オジサン頭が痛いけど面白い!」
どう転んでも愉快に笑うタブーおじさんであった。
「いいからさっさと授業とやらをしてくれよ!」
ゼロがまるで遊園地の入り口で、早く入りたいと待ち望んでいる子供のように急かす。
「オーケー、だが先に言っておくことがある。私の授業は自由だ。受けたい時は勝手に受け、逆に興味がないものは受けなくてもいい」
「え、いいんですか?」
てっきり学校のように強制的に勉強させられると思っていた星水は、自由制の講義に驚いてしまう。
「うむ!興味がないものを勉強するくらいなら寝てた方が有意義だ!ただし、もし2人とも興味のない授業があった場合・・・・・・!」
「ど、どうなるんですか・・・・・・!」
「孤独感を味わった1人のオジサンが泣いちゃう」
「ア、ハイ」
心底どうでもいいな、と思った星水だった。
「いいからさっさと授業してくれよジジイ!」
「君ってホント言動は不良なのにやる気は優等生だネ?!」
飢えたオオカミのような様子のゼロであった。
<どうやらゼロはタブーの提案を受け入れるようだね・・・・・・いや、そういう風に誘導されたか?>
「・・・・・・」
「じゃあまずは自己紹介だね!君、名前は?」
「あ?ゼロだ」
「オーケー、ゼロくん。ではもう1人の君は?!」
「星水です・・・・・・」
「星水、うん!長い!じゃあこれから君の名前は「ホシ」にしたまえ!」
「え・・・・・・あ、はい」
***
<とまあ、これで君の名前は「星水ゼロイチ」からゼロに名前をあげて「星水」タブーに改名されたことで、「ホシ」・・・・・・君は名前に対するこだわりはないのか?>
「・・・・・・ないな。別に俺も名前にこだわりとかある方じゃないからな」
<そうか、君が落ち込んでいないのなら問題はない>
「・・・・・・もしかして、励まそうとしてくれたのか?」
<?、いや、そんな意図はない。前にも話したが私と君は一心同体だ。君になにかあれば私も困る。君の健康状態を気にするのは当然のことだ>
「そうか。まあ、なんにせよ気をつかわせて悪かった」
<!、私は今「気づかい」ができていたのか?!人間というのは不思議だ。私は自らのために動いたにすぎないというのに・・・・・・>
「はは、結果として気づかいができたと思うよ?まあ、心配かけて悪かった>
<ふむ、ならば「悪かった」より「ありがとう」と言ってもらってもいいか?人間は謝罪よりも感謝される方が気分がいいと聞いた>
「そ、そうか」
アクマって思ってたよりも人間っぽいよな、と思った星水だった。
***
「それじゃあホシ君、いつもの異世界講座の時間よろしく頼むよ!」
「今日もぶっ飛んだ話を期待してるぜホシ」
「なんで自分が先生をやってるんですか・・・・・・」
「だって異世界のことに詳しいのホシ君だけだもん」
「あんた先生だろ?!生徒の俺に教えてもらうってどういうことだよ?!」
「なに?!先生が生徒に教えをお願いしてなにが悪い!」
「え?!これ俺が悪いの?!」
***
〜タブー先生の屋敷に住んだ翌日〜
「ところでホシ君ってどこから来たんだい?」
タブーが星水の服装を珍しそうに見ながら尋ねる。
「え、あ〜・・・・・・異世界です、なんて」
「・・・・・・君が元いた世界について詳しく聞いてもいいかな、いや聞かせてくれ」
タブーに出身を聞かれた星水は、どうせ信じないだろうなと思い、冗談風にホントのことを話したら真剣な目つきになったので驚く。
なので自分が知ってる範囲で地球のことを話すと、
「・・・・・・素晴らしい」
まるで噛み締めるようにタブーが喜ぶので、この先生マジで信じてる、と悟った。
「おい、いいのかゼロ」
「ん、なにがだ?」
「いや俺たちの先生、本気で信じてるんだけど・・・・・・」
「?、ホシは嘘を言ったのか?」
「いや言ってないけど・・・・・・」
「じゃあいいだろ。それよりもよお!ホシのいた世界のこと、もっと教えてくれよ!」
「うむ!それは私も同意見だ!よし、ホシ君には毎日50分、キミが元いた世界についての授業をしてもらおう!」
という経緯があり、ホシは毎日自分が知ってる地球についての知識を教えていた。
のだが、
「—————とまあ、自動ドアや自動エレベーターといった便利なものが—————」
「すげえな地球。そんな便利なもんがあったら無駄な移動とかしなくてすむな。なあ、自動エレベーターってどういう原理で動いてんだ?」
「知らん」
「質問だ、ホシ先生。自動ドアはどういった原理で人を判別してドアを開け閉めしているのかね?」
「えと、たしかセンサーで判別してるって聞いたことがあるような」
「ほお!センサーとは?」
「え・・・・・・知らないです」
「はああ!肝心なところで役に立たないなあホシ先生は!」
「そうだぜホシ。なんでこんな面白いもんを詳しく知らねえんだよ」
「興味ないからだわ」
毎日文句を言われている星水であった。
一応、タブーのおかげで毎日が安心して暮らせているから文句を言える立場ではない・・・・・・が、正直な話こっちがせっかく授業してやってんのになんで文句しか言わないんだコイツらと思っていた。
ただ、学生のころの自分も「あの先生の説明が意味わからん」「先生の教え方が下手くそ」とか、よく考えたら何様のつもりで文句言える立場にあったんだ俺は、と思った星水は心の中で先生も苦労してたんだなと実感する。
***
「外に出てみてえな」
それはなんてことのない日常に出た一言だった。ゼロと星水がタブーの授業を受け終わった瞬間、まるでぽろっと思わずこぼしたようにつぶやく。
「ほお、ゼロ君は外の世界に興味がおありかな?」
「ああ・・・・・・ジジイには申し訳ねえと思ってる。まだ、あんたから全部を教わったわけじゃねえ、ねえんだけどさ・・・・・・」
「うむ、落ち着いて続けてみたまえ」
悩むゼロにタブーは特になにか言うわけでもなく、静かに話の続きを促す。
「最初は、ジジイやホシから色んなことを教えてもらうだけで、満足してたんだけどよ」
「それは光栄だね」
「でも、それだけじゃ満足できなくなっちまったんだ・・・・・・俺も見てみてえんだ、外の世界を!!」
ゼロの隣に座っていた星水は、彼の横顔しか見ることができなかったが、
「あ・・・・・・」
彼の子供のように純粋な笑顔を見た星水は、どこか自分が置いてけぼりにされていくような寂しさを感じた。
「うむ、それが君の意思ならば、私に止める理由はないさ。好きにするといい」
「うおお!マジか、やったぜ!」
「ちなみに、どうやって外に出るかは知っているのかね?」
「あ・・・・・・わかんねえ。俺、外にでたいとか1回も考えたことなかったからよ」
「ハッハッハ!感情に身を任せた行動か!若いってイイね!!」
「うるせーよ。アンタはジジイだから人生経験豊富なんだろうが、こっちはまだガキなんだよ」
「うっ!年齢の話はオジサンには心にくる!まあ、そんな人生経験豊富なオジサンからのアドバイスだ。塔を登ってみるといい」
「塔?」
聞いたことのない言葉に星水は首をかしげる。
「おや、知らないのかい?この大穴に建っている塔、別名「蜘蛛の糸」な~んて呼ばれてるものさ。その塔の中には試練があって、最上階まで行くとどんな願いごとも叶うとか、はたまたすごい「力」がもらえるとか、はたまた・・・・・・外に出してもらえるとかね?」
「へえ、俺も存在だけは知ってたが、あそこってそんな摩訶不思議な場所なのかよ」
「あくまでウワサだけどね♪」
タブーは愉快に笑いながら話す。
「そうと決まれば、塔に行くか!」
「・・・・・・」
立ち上がるゼロ、座ったままうつむく星水、その対照的な2人の様子をタブーは見逃さなかった。
「ハッハッハ、元気なのはいいことだが、今日はもう遅い。明日にするといい」
「はあ?!・・・・・・あー、でもそうだな。明日にするか」
納得したゼロは部屋を出て行った。
「さて、なにかようかね?ホシくん」
ゼロが部屋を出ていったのを確認いたタブーは、まだ座ったままの星水に声をかけた。
「・・・・・・え?、あ!す、すいません!すぐ出ます!」
「ハハハ、そんなに慌てなくても大丈夫さ。それよりどうだい、今から特別授業を受けてみる気はないかな?」
慌てて退室しようとする星水をタブーがいつもの愉快な笑顔で引きとめるのであった。
よかったらブックマーク登録と評価ポイントよろしく!
励みになります