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4:哲学は無意味なのか?

<さて、暇だから自己紹介でもしようか、私の名前はアクマ。私に関しての記憶が一切ない幽霊みたいなものだ。よろしく>


「すごい、自己紹介なのに何1つ分からん」



 夜、星水はゼロがいつも寝床にしている洞穴の入り口で寝ずの番をしていた。

 そして暇だったので、自分の脳内(?)に住んでいる自称アクマと会話していた。



「幽霊っていうか、姿もないんじゃもはや概念みたいな存在だな」


<いや?姿ならあるよ、見せようか?>



 そう言った瞬間、星水の目の前に中性的な顔立ちの青い外套を纏った銀髪の幽霊が浮かんでいた。



「うわ、ビックリした・・・・・・声だけ聞こえてた時は男か女か分かんなかったけど、実際に見てみると・・・・・・分からん」


<それは私にも分からないんだよね。私って男なんだろうか?それとも女?>


「え、自分でも分からないの?!」


<さっきも言った通り、私は幽霊みたいな存在だ。自分の体に触れることができないため、チンコとオッパイのどちらがついてるのか確認することができないのだ>


「・・・・・・」



 恥もない様子で真顔で話しかけるアクマに、星水はリアクションに困るのであった。



「・・・・・・」


<む、すまない>


「?、なんだよ」


<いや、君が泣いているから。もしかしたら私の体に触れなかったのが残念すぎて泣いてると思って>


「は?・・・・・・あれ、俺、泣いてるのか」



 いつの間にか星水は目から涙がこぼれていて、アクマに指摘されるまで気づかないほど静かにながれていた。



「多分、今まで色々あったから・・・・・・今、生きてることに安心して・・・・・・ああ、クソ、とまらねえ・・・・・・」


<そうか、生の喜びはいい感情だと聞いた。存分に泣いたほうがいい>


「はは、なんだよそれ・・・・・・」



 星水は涙が流れないように上を向いて、天井にぽっかりと空いた大きな穴の向こうに浮かんでいる月を眺めていた。



 ***



「食い物を盗みにいく!」



 次の日、ゼロと寝ずの番を交代した星水は久しぶりに熟睡できたおかげで、スッキリとした朝を迎えると、そこには仁王立ちのゼロがいた。



「急だな」

「ああ、なんせ今まで俺のことは俺だけで済んでたが、星水は弱いから2人分の食料が必要になってくる」



 昨日ゼロからこの場所のことを聞いた時、星水は冷や汗が止まらなかった。


 どうやらここは「大穴」と呼ばれる所で、別名”世界のゴミ箱”とも呼ばれているらしい。

 そして大穴で生まれて今日まで生きてきたゼロが言うには、この世界で生きるには奪う奪われるしか手段がないという。


 要するに明日を生きれるかどうかも分からないほど治安が悪いということだ。


 そんな世界で「略奪」という犯罪を今からやろうとゼロに言われた星水はというと、



「悪い、自分のせいで危険なことをやらせてしまうことになって」

「なに言ってんだ、俺たち親友だろ」



 罪悪感とか罪の意識がこれっぽちもなかった。


 あ、なんか自分って思ってたより犯罪者の才能でもあったのかなと他人事のようにぼんやりと考えてた。



「それで、これからどこに行くんだ?」

「お宝ジジイの屋敷に行く」

「怪談話に出てきそうなネーミング」

「最近この大穴に外からやってきたジジイがいるらしいんだが、ソイツの屋敷にはたくさんの金と食い物があるって噂だ」



 ***



「ここがお目当ての屋敷だぜ」



 星水とゼロは薄暗くて荒廃した地平には不釣り合いなほど立派な屋敷の前に立っていた。



<妙だな。見張りの者どころか人が住んでる気配すらなさそうだ>


「たしかに・・・・・・なあゼロ、人がいないのが逆に不気味じゃないか?罠の可能性とか・・・・・・」

「ああ、それはあるかもなあ。ま、大丈夫だろ。俺の前じゃ数なんてあてになんねえしな」


<なるほど。確かに彼のブラックホールのような能力なら、ほとんどの者は太刀打ちできないだろう>



 アクマの言葉に星水も納得し、恐れることなく屋敷に入っていくゼロについていくように屋敷に入った。



 ***



「おお!すっげえ!食い物がたくさんあるぜ!」



 目の前の種類豊富な食料を前にゼロは喜ぶ。



<驚いたな。一見、屋敷の中には何もないと見せかけておいて、屋敷の地下にこんな大きな食糧庫があったとはね>


「ああ、それに・・・・・・本もある」



 食料の他に大量の本が無造作に積み上げられて山のようになっていた。



「なんだこれ?!すげえうまいな!」



 ゼロは本に目もくれずに食料をつまみ食いしている。



「ゼロ、ここにある本も何冊かもらっていくか?本、好きなんだろ?」

「ん?ああ、いいよ別に。どうせ読めないものなんかたくさん持ってたってしょうがねえだろ」

「え、お前って文字とか読めないのか?!」

「ああ、そうだけど」


<彼は大穴で生まれて育ったと言っていたね。であるならば、彼には勉強できる環境がなかったと思うよ>


「じゃあなんで本を読んでたんだよ」

「あー、暇つぶしかな。今までは1人でクソみたいな生活をしていたからな。やることがなかったんだよ」

「そうか・・・・・・あ、ならゼロがいつも読んでた本、代わりに自分が読んでやろうか?それくらいなら自分にもできるからさ」

「お、いいね。そいつは楽しみだ・・・・・・ってお前?!もしかして、本が読めるのか?」



 ゼロが血走った目で星水に詰め寄る。



「あ、ああ、できるけど・・・・・・」

「おいおい、こいつは何の冗談だよ・・・・・・親友ができたと思ったら、今まで意味不明だった本が読めるようになったとか・・・・・・ああ、人生ってサイコーだったんだな・・・・・・!!」



 ゼロは喜んだ。喜びすぎて泣くほどだった。

 その感情は今までの退屈な日々からの脱却を果たした嬉しさからくるものだった。


 いつも、退屈だった。飯を奪って、食って、寝て、また飯を奪って、食って、寝て、その繰り返しだった。

 そしてあまりにも膨大に残ってしまう時間を、読むことができない本をただ呆然と読むことしかできなかった孤独な日常。


 俺はあまりにも強かった。だけど強すぎたせいで、誰も俺には近づこうとしない、関わろうとしない。毎日が孤独で暇だった。


 それがどうだ?ある日、俺の目の前に弱い奴が現れた。しかもただ弱いだけじゃない、そいつはとびっきり弱い奴だった。だが、



「なんで怖くないのかだって?う~ん、多分だけど自分がすげえ弱いからかな。自分の周りの人って全員が多分、自分を簡単に殺せるやつらばっかりだから、今更って感じ、なのか?うん、俺もよく分からん」



 思いっきり頭をぶん殴られたような感じだった。

 俺の孤独を埋めてくれるとしたら、それは俺と同じくらい強い人だとずっと思ってたからだ。

 それが実際はどうだ?弱い人間・・・・・・星水が親友になってくれて、さらに星水は本も読めるときた!

 つまり!今まで意味のなかった文字が、星水のおかげで意味のある文字になった!


 ああ、これほど最高なことって他にあるかよ・・・・・・?!



「じゃあさ!星水ってこの本も読めるのか?!」



 興奮気味にゼロは自分がいつも読んでいた本を星水に渡す。



「ああ・・・・・・あ、でも、もしかしたら日本の文字じゃない可能性もあるな・・・・・・」

「はあ?!それって、読めないってことか・・・・・・?」

「あ、読めるわ」

「読めるのかよ?!」



 なんで異世界の本が日本語で書いてあるんだと思った星水であったが、読めてしまうのだからしょうがないと割り切ることにした。

 そして本をパラパラと数ページだけ軽く読む。



「これは・・・・・・”哲学”についての本だな」

「テツガク?なんだそりゃ」



 哲学とは、世界や人生の究極の根本原理を「客観的」「理性的」に追求する学問のことである。



「あ~・・・・・・答えのない問題を永遠に考える、意味のない無駄なもの」



 だが、そんなことを知る由もない星水は自分が思う哲学の意味を伝えた。



「なんだそりゃ?意味のないことを考えて、なんになるっていうんだよ」

「ははは、まあ物好きな人もいるってことだよ。俺から言わせれば哲学なんか考えるだけ無駄だしバカバカしいと思うけどな」



 星水は皮肉な笑いを浮かべながら語る。










「やれやれ、ヒドイ言いぐさだね。とはいえ、少年の言ってることも1つの正論ではあるがね」


「「?!」」



 突然、どこからともなく愉快な声が2人の耳に聞こえる。



<気をつけろ人間。この場に私たち以外の第3者が存在しているようだ>


「たしかに哲学は考えたところで答えがでないものがほとんどだ。それに頭も疲れる。無駄、という意味ではぐうの音もでない正論と捉えても仕方がない」



 ”ゴソゴソ”と物音が部屋に鳴り響く。

 音がした方を振り向くと、先ほどまで無造作に積まれていた本の山のてっぺんが生き物のように動いていた・・・・・・というより、この本の山の中に誰かがいる!



「「!」」


「だけどね、”結果”だけが全てではないのさ!その道に至るまでの”過程”について考えることも重要なのサ!!」



 本の山から誰かが飛び立つ!


 そして誰かが空中で回転しながらそのまま”シュタッ”と体操選手もビックリな着地を、



「あいったあ~~?!足が、グキッて!足がああああああ!!」



 することができなかった。



「「・・・・・・」」



 星水たちの前に現れたのは、白髪でジェントルな白髭が特徴的な老人だった。



「ふう、やっぱりこの歳で運動はするものじゃないね。あ、それそれとしてグッドモーニング!無知な少年たちよ!」



 老人は手に持っていた杖を用いて、綺麗な姿勢でまっすぐに立った。



「アンタが、お宝ジジイなのか?」



 ゼロが少し呆気にとられながらも、老人に尋ねる。



「ああ、周りからはそんな風に呼ばれているね。とはいえ、私がこの大穴に来たのは最近のことだ。色々と世話になるかもしれないので、そこんとこシクヨロ!」

「お、おう・・・・・・」



 老人の謎のテンションについていけないゼロであった。



「・・・・・・」



 一方で星水は老人に対して最大限の警戒態勢をとる。



「星水?」

「おや、もしかして私ってば嫌われちゃった?ヤだなー、若い子に嫌われるとオジサンってば時代に置いてけぼりされたようで傷ついちゃうなー」

「いや知らねえよ・・・・・・」


「ハッハッハ!・・・・・・ところで、君たち私の屋敷になんのようかな」


「「!!」」



 先ほどまで明るい雰囲気で話していた老人の雰囲気が一変する。柔らかそうな表情だったのが、今は人を品定めするような厳しい目つきになっていた。



「星水!後ろに下がってろ!!」

「ああ!」



 老人のプレッシャーに2人の若者は臨戦態勢に入る。星水はこれからゼロがすることを予測すると、彼から距離をとった。



「悪いな爺さん。ここにある食い物と本、もらっていくぜ。だが今の俺は気分がいい、そのまま見逃してくれたら命までは取らねえ」

「これは老人への虐待じゃないかな?!君には老人を敬う気持ちはないのかね?!」

「ハッ!ここは奪わなければ奪われるような場所だぜ?それに爺さんってことはアンタずいぶんと長生きしたんだろ?だったら若い俺たちに譲ってくれよ!」



 ゼロは手の平を前にかざすと、目の前にサッカーボールサイズのブラックホールを生み出す。



「ハッハッハ!めっちゃ生意気だな少年!でも私は好きだ!若者は大人に歯向かうくらいガッツがある方が面白いからね!」

「だったら、アンタのお望み通りにしてやるよ」



 生み出されたブラックホールは、己を中心にゼロ意外の万物を底なしの闇に吸い込もうとする。



「おや、もしかして私、その黒い球体に吸い寄せられてるカンジ?・・・・・・あれ、このままだとマズくね?」

「悪いな。俺も生きるのに必死なんだ」

「ふむ、弱肉強食というわけだね・・・・・・よろしい、ならば見せよう!私の能力を!!」



 老人が叫んだ瞬間、彼の体はキラキラと輝いていく。



「?!、なにをするつもりか知らねえけど、もう遅い。この闇は魔力を吸い込む」

「ふむ、それはどうかな?・・・・・・この世界は無数にある世界の内の1つに過ぎない」

「なに?」



 老人が呪文を唱え始めると、彼の体の輝きが一段と強くなっていく。



「そして我が人として生まれ落ちたのは運命ではなく、ただの偶然である」

「なにを、する気だ・・・・・・」



 そしてその輝きは更に強くなっていき、



「なればこそ、己の目的のために生きよう」



 その輝きは、全てを飲み込もうとする闇の球体(ブラックホール)を包み込むほどの強い光を放つ!



「な!」


「天上天下唯我独尊」



 その輝きは老人の周りに収束すると、虹色の輝きに変わった。



「はあ?!」

「それじゃ、正面突破と行くかね!」



 七色の輝きを纏った老人はブラックホールに向かって飛び込んでいく。



「は?なんで・・・・・・」

「と、違和感を感じたら即警戒するのがセオリーだ、少年」



 老人は虹色に光る杖を振り上げると、そのままブラックホールに叩きつけ—————



 ”パリン”



 ブラックホールを粉々に粉砕した。



「え」



 ゼロは自分の魔術が打ち破られた光景に呆気にとられた。

 今まで自分はこの方法で勝ってきた。どんな相手だろうが、どんな状況だろうが・・・・・・それなのに、目の前の老人は赤子の手をひねるかのように俺の常識を粉砕した。



「スキあり♪」



 老人は杖の先端でゼロの腹をフェンシングのように思いっきり突いた。



「ガッ!?」



 ゼロは痛みにもだえながら、老人の目の前で頭を垂れるかのように倒れこんだ。



「ゼロ?!」

「さて、残るは君だけになったが、どうする?」



 星水は痛みで苦しんでいるゼロに駆け寄ろうとするも、静かではあるものの威圧的な老人の視線に足がすくんでしまう。



「す、すいませんでした!悪気はなかったんです!」



 今さら何を調子のいいことを言ってるんだと思いながらも、今の星水にできるのは土下座して命乞いをすることだけだった。



「ほお、ドゲザ!たしか極東国にある謝罪のポーズだったね。ふむ、ではそうだね、ある条件をのんでくれれば私が君の命を脅かすことはないと保証しよう」

「ほ、本当ですか!」

「ああ。そして条件の内容だが、君だけは見逃そう、ただし私を殺そうとしてきた少年には死んでもらう」



 とても冷め切った声で話す老人の提案とは、ゼロを見捨てて逃げることだった。



「え」

「どうした?返事を聞かせてもらおうか・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


<1つ忠告だ。君では目の前の老人に勝つことは絶対にできない。逃走を提案する>



 分かっている。ゼロを倒してしまうような相手に勝てるわけがないってことは、自分が1番よく理解している。



「・・・・・・」



 しかし、星水は決断することができなかった。



「しん、ゆう・・・・・・」

「ゼロ!」

「逃げ、ろ・・・・・・こんなクソジジイ、余裕でぶっ殺してやるからよ・・・・・・」

「っ!」



 余裕がない表情で自分を守ろうとするゼロを見て、星水は息がつまる。


 見捨てるのか?


 勝てるわけがない。


 友だちを犠牲にしていいのか?


 逃げろ。


 星水の呼吸が荒くなる。視界が”ぐにゃり”とねじ曲がっていくような錯覚になる。



「フ」

「え」

「フハハハハハ!!」



 そんな悩み迷いながら苦しむ星水を見た老人は、急に声高らかに笑う。



「?!」

「迷うか少年!こういう場面でそれは悪手ではあるが、イイね!私は好きだぞ少年!よし、気が変わった。君たち2人とも生かすことにしよう」

「え」

「ふざ、けてんのか!クソ、ジジイ・・・・・・!」



 老人の急な態度の変化に戸惑う2人。しかし老人はお構いなしに、愉快に話し続ける。



「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。私の名前は・・・・・・え~と、よし!タブーってことにしとこう!」


<あの老人、明らかに偽名を使ってるよね?>


「私の生徒にならないか?」




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