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 さすが王宮の庭園だ。どこを見ても整然とした美しい花々で飾られている。

 ああこれで目の前にいるのが可愛らしい女の子で、私とお茶をキャッキャウフフと楽しんでくれる方だったら……


 目の前で優雅にお茶をたしなむ第二王子殿下をついジト目で見てしまう。




 最後に会ったときと変わらず可愛らしく麗しいお姿だ。

 王太子であるフィリップ様もそれは麗しくきれいな顔立ちをしている方だが、鍛えられた体躯に似合う凛々しさも感じられる。

 対して第二王子殿下であるアレク様は、幼い頃は王女様に間違えられるほど美少女のような可憐な見た目をしていた。今もどちらかというと中性的な雰囲気で、可愛らしい甘い顔立ちをしている。



(この方がヤンデレに変貌しているとは……)


 前世の知識から考えても、ヤンデレは何がきっかけで激昂するかわからない。特に第二王子殿下の婚約者様であるユーリ様の話題には気をつけなければ。




 慎重になればなるほどなかなかこちらから話を切り出せない。それを見かねたのかアレク殿下から話を切り出された。


「久しぶりの王宮はいかがですか。忙しない場所に気疲れしたのでは。ここ半年は例の事件もあったせいで、父上も兄上もそれは立て込んでいてね。レイシア嬢は遠くの領地に籠られていた時間が長かったようですから、侯爵邸の悠々とした雰囲気がもう恋しくなるでしょう。」


(おお、早速先制攻撃かな。)


 これは王宮の雰囲気に慣れない私への慰め……ではないですよね。田舎町に引きこもって、のんびり過ごしてた令嬢にこの混沌とした状況で王妃が務まるか、とでも言いたいのかしら。



 馬車でのフィリップ殿下との会話を思い返す限り、アレク殿下が王太子の座を狙っているということはないのだろう。それなのにこうして私に絡んでくるわけは……。



「殿下。」


 できるだけ優雅に少し高飛車かしらというくらいの涼しげな表情を作り、アレク殿下に向かって微笑む。


「殿下は私を試していらっしゃるのでしょう。」

 アレク殿下は口を結んだままこちらを見ている。



「正直申し上げますと、このお話を聞いたときは、私より他にもっとふさわしい方がいらっしゃると思いましたわ。第二王子殿下がおっしゃる通り、私は領地に長く留まっておりましたし、王都からも王宮からも遠ざかっておりました。今王宮に通っていらっしゃる方の中にもっとふさわしいご令嬢がいらっしゃるだろうと。」

 扇を口にかざしながらそう言い切ると、アレク殿下が口元を歪めながらこちらをにらんでくる。


(しまった。少しユーリ様のことを含めて話し過ぎてしまったかしら。)


 まあここまで言ってしまったのだから仕方ない。


「しかし領地から王宮までの馬車から見える景色を見ていて思いましたの。この国は豊かですわ。それはこれまでの王家の方々のご尽力があってこそのものでしょう。そして近年あのような大きな災害があったにも関わらず、復興の早さは目を見張るものがある。

―――どれほどのご心労があったのだろうかと思いますの。それにも関わらず、王太子殿下はあのような心を痛める事態にも直面してしまった……。」

 その時のフィリップ殿下の胸中を想うと、こうして話しているだけで心が痛む。


「正直、私と王太子殿下の間に深い恋慕や愛はないでしょう。でも私はあの方と最大の信頼の上に成り立つ関係を築いていきたいのです。そしてあの方を支えていきたい。それこそが王太子妃の役目ではないかと思っております。そのためでしたらあらゆる努力を払いますわ。」


 アレク殿下は私の話を黙って聞いている。


「私がこの座を自ら降りるということはありません。もちろん陛下や王太子殿下から指示があればその限りではありませんが……そうならぬよう精一杯努めます。私根性だけはありますの。第二王子殿下もよくおわかりなのでは。」

 どうせ私のことも調査済みだろう。



「……ですから第二王子殿下に―――ユーリ様にご負担がかかるということはないかと思います。」


 ここが勝負どころだ。ユーリ様の名前を口に出す。

 案の定、アレク殿下は大きく反応した。


 席から離れ、アレク殿下の耳元に口を寄せる。周りに聞こえぬ声で囁く。


「ユーリ様は――――」


 私が囁いた途端、アレク殿下は椅子が倒れるのもかまわず立ちあがった。

「なぜそれを――――!」

 そのように声を荒げる殿下の姿は珍しい。


「殿下、落ち着いてくださいませ。私はその事実を、今後も誰にも申し上げるつもりはありません。そうする理由も必要も、私にはありませんから。」

 アレク殿下にしっかりと伝わるよう、彼の目を真っすぐと見つめて告げる。


「―――私はユーリ様の側に殿下がいらっしゃって良かったと思います。自分を何よりも愛してくれる存在は、何者にも変えられぬ素晴らしいものですから……。」




 距離を置いているとはいえ、侍従やメイドの視線が気になったのだろうか。アレク殿下はそれ以上私を問い詰めることはなく、別れの挨拶だけ告げて去っていった。


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