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46 フィリップside

 王宮に戻り、レイシアとついでに自身を医師に診てもらい、彼女を部屋でたっぷりと愛でて、ベッドへと休ませる。



 ようやく落ちついた夜更けに、陛下の執務室に向け、王宮の廊下を歩いて進む。


 王宮はこの時間になっても、あちこちで厳重な警備が敷かれている。



 執務室の前まで来るとドアをノックし、入室の許可を待つ。

「入れ。」

 すぐに中から返事が来る。


 執務室へと私が入室するや否や、他にいた従者たちは一斉に引き上げる。

 これからする話は陛下と王太子二人だけの機密事だ。




「陛下、王都の誘拐事件はどうなりましたか?」

「お前の言う通り、レオの元に残されていた手紙に書かれていた場所を探ったところ、そこで一網打尽にしたそうだ。やはり犯人グループは反王家派の者共だったよ。でもあくまで末端だ。あやつらから反組織の大元を割り出すのは難しいだろう。」

「そうですか……。」

 これは想定内のことだ。あくまで使い勝手の良い者たちを、叔父が影で操っていたのだろう。


 今回の誘拐があの儀式の贄のために起こされていたものであれば、これで一度王都の誘拐事件は幕を閉じることになる。



「……レオはどうなった?」

「……時空間に引き込まれたようです。例の禁術を失敗したようなので。」

「そうか……なんでよりによってあんなものを。」

 そういって頭を抱えた父を見ていると、その姿がいつもより一回り小さくなったように感じる。


「あいつが自分を追い詰める前にもっと早く気付くべきだった。メアリー嬢を失くした痛みを、研究に力を注ぐことで忘れようとしていると思っていたのに。」


 叔父は婚約者を失くしてから、表向きは病を軽快させる魔法が禁書に残されていないかを調べるため、禁書の研究を始めた。病を元から失くすことが出来るのは女神の浄化の魔法だけだ。しかし根本から消すことは出来ずとも、症状を改善に向かわせる魔法を作り出すのは、今あるいくつかの魔法を組み合わせれば不可能ではない。


 実際に叔父は禁術の中の複合魔法を用いて、その新しい魔法を打ち立てることに成功していた。



「レオにとってメアリー嬢がどれだけ大切な婚約者なのか、私はわかっていなかったのだな。」


 父上も母上を大層大切にし、常に愛を捧げている。

 しかし、おそらく叔父とはその愛の重さが違った。叔父は建国書にある女神に呪われた王子のように、愛の執着に捕らわれてしまったのだろう。


 そしておそらく僕も。


 だからこそ今回の叔父の行動を僕には理解できた。




「叔父が引き起こしたこの一連の事件はどうされるのですか。」

「……公表するわけにはいかない。反王家派に勢いを与えることにもつながる。それに災害の理由を民が知れば、王国は混乱に陥るだろう。我々が処刑台に上がっても、それは収まることはない。」


「また隠されるべき王家の歴史が増えていくのですね。」

「私もお前も、あの建国書を見た時からそれは覚悟の上だろう。」


 もはや禁書の機密は建国の秘話が記されたあの書だけには留まらない。その後の王家の愛の執着によって引き起こされた数々の事件も、秘匿されなければならない王国の闇の歴史だ。




「しかしよくあの禁術を破れたな。」

「建国書に載っていた王家の遺物を持っていきました。意図せぬことでしたが、それに血が流れた途端……」


 そう。あの時、私の血で塗れたそれに、私の足元まで流れついたレイシアの血が混ざった途端、その光景に半狂乱になり叫んだあの瞬間。


 足元に落ちていた遺物が急に光りだしたのだ。


 そして何者かわからないあの声が響いた。




 建国書には、その遺物の絵とともに『愛に執着するもの、その血流るるとき、その望みを防ぎしものすべてを打ち滅ぼさん』と記されていた。


 叔父に疑惑を向けた後、禁書を読み漁り、強大な魔法を破る手段の一つとして記されていたそれを、王家の宝物庫から念のため引き取っておいたのだ。レイシアの居場所がわかる魔道具を手に入れるついでに。それをレイシアに装飾品として身につけさせておいたおかげで、すぐに彼女の居場所もわかった。




「禁書を研究していたレオはいなくなってしまったが、研究はそのまま続けた方がよさそうだ。本来なら第二王子であるアレクに頼むところだが、魔力が多くなければあの解読は難しい部分も多い……。フィリップ、可能な限りお前がやりなさい。」


「かしこまりました。」

 禁書には謎が多い。自分が叔父の資料を引き継いで研究できるなら、それが一番だろう。




*****

 叔父の話がひと段落し、父もだいぶ気持ちが落ち着いたようだ。

「ところでレイシア嬢の様子はどうだ?」」


「怪我は止血を終えました。命に別状はないようです。今は疲れて部屋で眠っています。」


「彼女にはだいぶ負担をかけてしまっている。本当に王家に嫁ぐのが良いことなのか……いや、やめさせることはない。だからそんな顔で見るな。」

 意図せず、ひどい形相で父を見ていたようだ。


「父上。結婚式を早めることをお許しいただきたい。」

 私がそう言うと、「この話の流れで何故だ」というような顔で、父がこちらを見てくる。


「確かに王家は彼女に負担を掛け過ぎています。いち早く婚姻し、正式な庇護を与えるべきです。婚約者より王太子妃のほうが庇護の魔法もより厳重にかけられる。」


 実際王妃である母上には、王宮の魔法師が何重にも庇護魔法をかけている。これは正式に王家に入らなければ行うことは禁止されている。



「……わかった。認めよう。ただ準備期間を考え、周りに迷惑を掛けない範囲で頼むぞ。」

「もちろんです。」

 にこりと満足げに笑って見せれば、父には呆れたようなため息を吐かれる。



「……今日は疲れたな。私ももう休む。お前も下がりなさい。」


「はい。では今後のことはまた後日。失礼します。」

 礼を取り、父の執務室を後にする。




*****

 ドアを閉め、廊下へと出れば、すぐに早足でレイシアの待つ自室へと急ぐ。



(結婚式を早めると伝えたら、彼女はどんな顔をするだろう。)


 想像するだけで思わず笑みが漏れてしまう。



 彼女はすぐ俺のそばを離れたがる。本心は別のところにあるくせに。逃げ場のないよう早めに囲ってしまおう。


 明日の彼女を頭に浮かべ、より一層早足で王宮の廊下を進む。


次回、最終話になります。

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