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前話に続き、流血表現があります。苦手な方ご注意ください。

(もうダメだ……!)

 そう思って目を瞑った時、




 ドカンッ!


「叔父上!」


 ドアが破られた大きな音とともに、心から願っていた人の声が響く。

 そちらに目を向ければ、砂埃が舞う先に、瓦礫を超えてこちらに向かってくる彼の姿が見える。



「……フィリップさま」



 ほとんど音にならない声でその名を呼ぶ。それでも彼はすぐにこちらに気づき、私の姿を見て目を見開き、すぐにこちらに駆けて来る。



「レイシア!」

「フィリップ様!」

 今度こそしっかりと愛しい人の名を呼ぶ。



 しかし私たちの間には見えない壁のようなものがあるのか、一定の距離を超えてフィリップ様はこちらに近づけない。



 ドンッドンッ!

 フィリップ様がその壁を打ち付ける音が大きく響く。


「叔父上!いますぐこの結界を解いてください。」

 恐ろしい形相でフィリップ様が公爵様に要求する。


「できるはずないだろう。魔法の行使中だ。」

 そう言って、わざと私から流れる血を殿下に見せつける。


「っ!レイシアに何をしている―――!」

 フィリップ様の表情がどんどん険しくなっていく。


「君もあの禁術が書かれた書を見たのでしょう。彼女にはあの術の贄になってもらいます。」


「ふざけるな!そんなこと許されるわけがないだろう!」

 繰り返しその拳で結界を打ち付ける。



「確かに君がここに来たということは、もう穏便に済ませることはできませんね。ようやく君を王都の外に追い出せたと思っていたのにこんなに戻りが早いとは……。所詮、半端な組織では王家の敵にはなりえませんか。」


「やはりあの事件もあなたの差し金だったのか。」


「あなたとレイシア嬢をできるだけ離れさせるためですよ。でももうこれで余計な気は使わなくて済みそうですね。彼女にはできるだけ早く血を流してもらいましょう。」


 先程より大きなナイフを手にして、公爵様がこちらに近づいてくる。


 傷を隠す必要がなくなったということか。

 恐怖で体がガタガタ震える。



「レイシア!やめろっ!彼女に手をだすな!」

 何をするのかわかったのか、フィリップ様は半狂乱になって結界をたたき続けている。


「そんなものでこの結界が壊れるわけがないでしょう。入口のものとはわけが違う。」

 公爵様が冷たく一瞥しても、フィリップ様はそれをやめない。



「レイシア!レイシア!」

 一心不乱に結界をたたく。その拳は傷だらけになり、そこから血が流れていく。




 ガシャンッ!

 何かが落ちる音がして、そちらに目を向ければ、フィリップ様が握っていた何かが落ちたようだ。そこにも彼の血がしたたり落ちている。



「レイシアに手をだしてみろ!死んでも死にきれないような苦しみを、おまえに与えてやる!」

 激昂したフィリップ様は叫びながら、なんとか結界を破壊しようとしている。足元には血だまりができ、結界を通り抜けこちらにまで届こうとしている。



「フィリップ様、おやめください!血が……!」

「君はフィリップの心配をしている場合かな。」


 ナイフの柄で先程の傷を強く押される。血がより勢いを増して流れ続ける。


「うっ…!」

「可哀そうに。君に恨みはないんだよ。こうなっては、ひと思いに死なせてあげるから安心なさい。」


「させるわけがないだろ!今すぐレイシアから離れろ!」

 フィリップ様の止める声が聞こえるが、公爵様はもうそれをかまう様子もない。



 大きくナイフを振り上げた。

 このまま下ろせば、それは私の心臓の真上に突き刺さる。



「っっ!」

 強い痛みを覚悟してきつく目をつぶる。


 それが振り下ろされる気配を感じたとき、




「レイシア――――!」

 

 フィリップ様の悲痛な叫びとともに、聞き覚えのない機械じみた声が聞こえる――――




『----。----------!----------------------。--------------!-----!-------------------。----------------------わたしたちのじゃまをするならすべてこわしてやる――――!』





 その速さに内容にまで理解がいかない。

 しかし最後の言葉だけが変に耳に残る。


(ヤンデレ!?)


 


 次の瞬間。




 ドオンッ!

 ものすごい音とともに巻き起こった爆風で、体が吹き飛ばされる。


 叫ぶ間もなく、何かにぶつかり体が床に打ち付けられる。

 わけがわからず、頭を抱えながら目を開くと、先程までいたと思われる祭壇付近に真っ黒な空間が浮かんでいるのが見える。



(なにあれ?まるでブラックホールみたいな……)



 呆然としていると、こちらに駆けて来るフィリップ様の姿が見える。



「レイシア!」

 私を見つけるなり腕の中へと抱き込んだ。


「フィリップ様!ご無事だったのですね。」


「私よりレイシアのことだ!怪我は……!ちゃんと止血をしたいが、まずは身をかがめて。ここは危険だ。」


 気づけば先程の黒い空間を中心に、辺りの物がその暗闇に引きずりこまれている。


「どんどん力が強くなっている。もっと柱の影に隠れるんだ。」

 フィリップ様にそう言われ、近くの柱の影へと隠される。


「公爵様は!?」

「わからない。爆風の後、急いでこちらに駆けて来たから。ただあの爆風の時に飛ばされていないなら、あの中心付近に……」



 それを聞き、慌てて身を乗り出し、中心付近を見渡す。


「レイシア、危ない!もっと物影に隠れて!」

「しかし公爵様が……!」


 止めるフィリップ様の肩越しに中心へと目を凝らすと、黒い空間に飲み込まれそうになっている公爵様の姿が見える。


「公爵様!」

 届かないとわかっていても手をのばしてしまう。


 こちらの声に気づいたのか、公爵様がこちらに目を向けた。

 

 そして音にはならないが、口元を動かして何か伝えている。




(いいんだ、これでようやくかのじょのところにいける)



 そう言うと微笑んだような顔で、黒い空間へと吸い込まれていった。



 彼を飲み込むと、その空間はだんだんと小さくなり、何もなかったかのように消え去った―――

 



*****

 残された私たちは、しばらくその場所を見ながら呆然とした。


「公爵様は……」

「おそらく魔術が途中の段階で破られたからだろう。失敗した契約者を飲み込んで消滅したんだ。」


「では公爵様は……」

 涙を流しながら、フィリップ様を見る。

 フィリップ様も悲痛な顔をしている。


「あの空間に引きずり込まれたんだ。おそらくもう戻ることはない。」


 あまりにも悲惨な最後に言葉が出ない。

 公爵様のしたことは許されないことだが、それは王国の法の下裁かれるべきことだ。こうして消えてしまうなんて……。



 彼の最後を思い返すと、穏やかな表情の公爵様の姿が浮かぶ。


(彼はずっとこんな最後を望んでいたのだろうか。まるで誰かが自分を消してくれるのを、ずっと待っていたようだった……。)




 しばらく私とフィリップ様は抱き合って泣きながら、このどうしようもない感情を持て余した―――


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