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 翌朝、目が覚めてすぐに知らされたことは、王都近くの領地で魔法の暴発によるものとみられる事件が起き、フィリップ様が事件の視察のために王都を出たということだった。


(昨日のこと早く謝りたかったのに……。)



 仲違いしたまましばらく会えないのは不安だが、こればかりは仕方がない。気持ちを切り替えて今日の公務をこなしていく。とはいっても、今日は決裁書類の確認くらいで、午前中にはひと段落つきそうだ。



(ザカリー侯爵夫人に教育機関の様子だけでも聞きたかったけど、今頻繁に夫人を外出させるようなことはできないわね。)



 孤児院のチャリティーに出す物資の確認でもしようか。

 ここ最近は、視察に向けて他の仕事を前倒しでこなしていたせいで、急ぎの仕事はなさそうだ。



 鬱々とした表情の私を見かねた侍女が、庭園の散歩を提案してくれる。今の時期、庭園は心地よい風が吹き抜け、散歩するには一番の時分だ。




*****

 外に出て清々しい空気を思い切り吸い込むと、少し心が軽くなる。


 しばらく花を見ながら歩いていると、前からシャーリー公爵様がこちらに向かってくるのが見える。


「シャーリー公爵閣下、ごきげんよう。」

 すぐさま礼を取る。


「レイシア嬢、散歩中にすまないね。急なんだが、これから例の教育機関に視察に行くことになってね。レイシア嬢の予定も空いているようだから、いっしょにどうかとお誘いに来たんだ。」


「わざわざお声かけいただいたのに申し訳ありません。今王都の事件で警備も慌ただしいと聞きましたので、フィリップ殿下と相談して、私は視察は遠慮させていただくことになりまして……」

 今朝断りの手紙を送ったはずだったが、入れ違いになってしまったようだ。わざわざ直接こちらにいらしてくださったのに申し訳がない。



 すると公爵様は懐から一通の手紙を出し、私に手渡してきた。

「フィリップからの手紙だよ。昨日の出立前に私が預かっていたんだ。中を確認してごらん。」

 失礼をしてすぐに開封してみると、確かにフィリップ様の筆跡でこう書かれていた。


『レイシアへ

先程はすまなかった。

君を心配するばかり、引き留めることばかりに気がいってしまった。

視察の件は警備も含めて叔父に任せることにした。

ともに行けない私のかわりに、君に視察をお願いしたい。

急ぎで短い手紙になってしまってすまない。

         愛を込めて フィリップ』



 いつもと比べると語り口は固く感じるが、この筆跡とサインは確かにフィリップ様のものだ。


「フィリップ様がこれを公爵様に?」

「昨日私も陛下に呼ばれていて、出立に立ち会えたからね。フィリップは、君とけんかになってだいぶ凹んでいたよ。警備についてもう一度よく話したら、レイシア嬢が視察に行く許可を出してくれたんだ。」

 そう話していた公爵様が時間を気にする。


「おっと、私は後の予定が詰まっていてね。急ぎで申し訳ないが、この後すぐに馬車で視察に向かいたいんだが。もちろん短時間の外出で済むようにするよ。」


 急な話に困惑するが、フィリップ様から許可が出ているというなら断るのも失礼だ。

 少しだけ支度の時間をもらい、公爵様の待つ馬車へと急ぐ。


 公爵様にエスコートされ、馬車に乗り込んだところでふと思いつく。


「公爵様。できればジェイク様にだけでも、視察の件を直接お話しておきたいのですが。」

 ジェイク様は王宮に残っていると、今朝侍女から話を聞いていた。彼に伝えておけば、私が今日視察に向かったということも、すぐにフィリップ様に伝わるだろう。


 席を立ち、馬車から降りようと身を乗り出したところで、強く手を後ろに引かれる。

「きゃっ!」

 思わず後ろに転びそうになったところを公爵様に支えられた。


「公爵様、申し訳ありません。一度放していただけると…」

 そう言って公爵様の顔を見ようとしたところ、耳元で聞いたことのない低い声が囁かれる。


「君に行かれると困るな。このまま大人しくついてきてくれないと。」


 えっと思った時には、掴まれた手から感じたことのない魔力が流される。一気に酔いが回ったように眩暈がひどく、立っていられない。


「馬車を出せ。」

 そのまま馬車が動き出す音が聞こえ、私は意識を失った。



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