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 会場へと戻り、バルコニーからだいぶ距離を置いた場所で立ち止まる。

 殿下はこちらを振り向くと、心配そうな表情で私の顔を覗き込んできた。

「大丈夫か?」

「私のほうは心配ありません。しかし聖女様とダン様をあのように振り切ってよかったのでしょうか……?」


「かまわない。夜会にわざわざ参加するということは、何かしらこちらに用があるとは思っていたが、想定よりひどいものだったな。恐らく第一王子の振る舞いにしろ、災害の件にしろ、聖女自身が確かめたことなど何もない。第二王子を押す貴族の言うことをすっかり鵜呑みにしているのだろう。」

 わずかに眉間にしわを寄せながら、殿下はそう言葉を吐き出す。こういった場所で感情を外に出すのは珍しい。


「とにかく一度この件を陛下に報告してくる。レイシアは少しこちらで待っていてくれ。それとも控え室で休んでいるかい?」


「……では少し控室で休みます。」

 主役が二人とも抜けるのはどうかと少し迷ったが、一度控え室に戻ることにする。先程バルコニーで引っ掛けてしまったドレスの裾が気がかりだ。人から見て目立つもので、誰かに指摘されれば目も当てられない。


「では近衛を付き添わせる。話が終わったら私が迎えにいくので控え室で待っていてくれ。」

 殿下はそう言うと、近くに控えていた近衛に声を掛け、控え室に案内するよう指示を出す。


「では、また後で。」

「はい。お待ちしております。」

 軽い別れの挨拶をして、近衛とともに会場の出口へとゆっくり進む。途中、数人の貴族に声を掛けられながらも手短かに話を済ませ、ようやく会場の扉へと辿り着く。


 扉を開け人気のない外へ出ると、ようやく緊張から解放される。


 ところが、控え室へと向かおうと足を進めたところで、サハラ国の第一王子が前からこちらに歩いてくるのが見えた。むこうもこちらに気づいた様子だ。


(さすがに何の挨拶もせずに立ち去れない……。)



「セルジオ第一王子殿下、ごきげんよう。本日はお忙しい中、本国の夜会にいらしてくださいまして、誠にありがとうございます。」

 丁寧な礼を取って挨拶をする。


「こんなところで未来の王太子妃様に会えるなんてね。レイシア嬢、ご丁寧にありがとう。こんな華やかで素晴らしい夜会に参加できて嬉しいよ。」

 こうして挨拶を交わすだけなら、なんてことはない、享楽的で独裁的な面など全く見当たらない普通の紳士だ。


「そう言っていただけて光栄です。王国の特産品だけでなく、各国の味付けを模して作った料理も多数ご用意しておりますので、サハラ国のみなさまにも楽しんでいただけていると良いのですが。」

「早速皆いただいていたよ。あそこまで味を再現できるなんて王国のシェフは本当に優秀だね。ダンやミアも久しぶりの王国の料理に感激していたようだよ。二人とはまだ会っていないかな?」

 急にダン様と聖女様の名前を出されて、内心動揺してしまう。


「先ほどフィリップ殿下とともにご挨拶をさせていただきました。お二人にも久しぶりの滞在を楽しんでいただけると良いのですが。」

動揺を表には出さなかったつもりだが、そう返すとセルジオ殿下の雰囲気が一気に変わる。



「……王太子殿下の姿が見えないがどちらに?」


「フィリップ殿下でしたら陛下にご伝言があるようで、今は外しております。」

 殿下に用事でもあったのだろうか。


 内容を聞いて伝言でも預かろうかと考えていると、

「……ではレイシア様は早く安全なところに行ったほうが良さそうだ。」

 セルジオ殿下が何かつぶやいたようだが、小さな声でほとんど聞き取れない。


「第一王子殿下、失礼ですがもう一度……」


 ドンッ!

 聞き返そうと問いかけたところで、突然誰かに体当たりをされる。何が起きたか一瞬わからず倒れたまま顔を上げると、護衛の近衛に体を押さえられている。

「レイシア様、体を伏せていてください!」

 近衛の体越しに、セルジオ殿下が覆面姿の人間たちに押さえられ、連れ去られようとしているのが目に入る。


「殿下!」

 思わずそう叫ぶ。同時に、近衛の体が自分から引き離され、何かを口に当てられる。


「いけない」と思った時にはもう意識を失っていた。


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