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いつもと同じ朝。
王都から離れた田舎町だからこその広大な庭園が広がる我が侯爵邸は、また今日も変わらぬ日々を送るはずであった。
予期せぬ訪問者が来るまでは―
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よく整えられた庭園に急遽設けられたお茶の席。
そこでは、田舎町には不似合いな煌びやかな装いをした青年が優雅にお茶を飲んでいた。
「先触れもなく訪問してしまい、申し訳なかったね。」
さすがに不穏な空気を感じたのだろう。少し眉を下げ謝罪をするその人の言葉には、しかし言葉ほどの重さはない。
「とんでもございません。このような粗末なもてなしで申し訳ありませんわ。」
思わず目元が引きつってしまうのは許して欲しい。まだまだ忙しいこの時期に何の知らせもなく来るとは。
(今日は新しい学校の設立のために、ようやくいい土地を持ったオーナーと話し合いができるはずだったのに。)
「ところでどのような御用件なのでしょうか?―――殿下?」
そう。よりによってここに訪問しているのはこの国の第一王子。王太子なのだ。
早朝の突然の訪問に、我が侯爵家の使用人たちのあたふたした姿が目に浮かぶ。
ただでさえここ数年は、こうした高貴な方の訪問はなかったのだ。慣れない歓待の準備を、少ない使用人でここまで整えてくれたのだから感謝に耐えない。
「突然の訪問に戸惑わせてしまったのは本当に申し訳ないと思っているんだ。しかしどうしても急を要することでね。内密事でもあるから人をなかなか動かせなかった。」
困った表情でそう話す殿下を見て、こちらにも緊張が走る。
緊急で内密な事―――ここ数年王都の政治事から離れている我が家にどんな用事があるのか検討もつかない。
「率直に言うよ。
レイシア嬢、私と婚姻を結んでほしい。」
「―――――はいっ!?」
お茶を噴き出さなかった私をどうか褒めてほしい。