さる携帯電話君とその周辺雑貨達の擬人化
頭を空っぽにしてどーぞなのです〜(^O^)/
「風呂入る前に充電しとこ。更新あるかな?」
充電ケーブル届いてたよな、あったあった。ワンルーム、床に置きっぱの密林から届いたやたらに過剰包装の荷物をベリバリと開け、中身を取り出すと鼻歌交じりで携帯を充電。
ポーン♪充電音に送られ、バスルームに姿を消したところから、ストーリーは始まる。
☆
フローリングの上に敷きっぱなしの天然ウール素材の丸いラグから、クルリンと形取った繊維がいっぽん、ふわり。空を舞って下りるは充電中の携帯電話の画面の上。
その存在に気がついた、寸分の気泡も入り込まさぬ様に、ピッタリと密着した保護・窃視防止フィルム、『強靭ガラスフィルムゴリラ』こと、ゴリ子はクリアな透明度をスッと上げる。
「やだわー、ホコリ! 私が居て良かったわー。坊っちゃんのツヤッツヤな♡液晶画面に、要らぬゴミが付着するところだったわ〜、坊っちゃん好き!何時までも清らかな、ツヤッツヤでいて!」
彼女らフィルム一族にとって、携帯電話は何時までも可愛い坊っちゃん。シーズンになると次々にリニューアルをされるからだ。フィルム一族はその都度、サイズを微調整をし販売されている。
「敷物の上に置きっぱなしって、どうなのよ、私が居て良かったよ。居ないともしやしたら、背面に傷がつくやもしれぬ! あ、あ、あ、感じる魂の仄かな温もりを。我が君よ! この愛を受けてほしい」
硬質だが切ない乙女の声がそう上がる。携帯電話を衝撃から守る事こそ、生きる信条、カバー族、『全透明 ケース 耐衝撃 超軍用規格 〔滑り止め、すり傷防止、柔軟〕〔美しい、光沢感、軽·薄〕 衝撃吸収 クリア カバー』こと、クリ美。ガッチリと上下左右の側面と背後を覆っている。
彼女もまた、リニューアルチェンジの毎にアチラコチラを少々、微調整をし任務についている為、坊っちゃん扱いをしている。
「なんですって! クリ美! 坊っちゃんのシャンパンゴールドの御身体に擦り傷等、絶対につけないでよ!」
「分かってる! ゴリ子。そっちこそ、ご尊顔である液晶画面に、ヒビ割れ等、言語道断」
何時ものごとく盛り上がる二人。その時、ピロリン♪、ヴヴヴゥ!光る画面、軽く振動。二人はドキドキと、ときめく。ゴリ子はピッタリと密着をした全身で坊っちゃんの息吹を感じ取り、クリ美は総受け状態の身体で受け止める。
「ふたりともうるさい、どっちも嫌い」
充電中なんだ、静かにしててよ。坊っちゃんこと携帯電話君が忌々しそうにボヤいた。
「今日は入りが激しいんだよ! なんだろう初めての時みたい、ビンビンに感じちゃうんだ」
「あら、坊っちゃん。昨日迄は入りが弱いって言ってたのに」
「新しいケーブルだからだろ。おいこらケーブル野郎、そうだろお前」
つれないセリフ等、馬の耳に念仏。
「は、はい。こんばんわです」
高速充電ソケットから繋がるおNEWな充電ケーブル、ジュデ男。しっかりと坊っちゃんと繋がり、身体の中を通し電気をビュルビュルと放出中。
「あれ、前のと違う。だからなのかぁ、君があの人の指先でつままれて、グッと突っ込んだ時。フィット感がピッタリだったから。ん、凄い量だよ?」
「はぁはぁ、初めての任務なんです。ガンバリマス!」
「ああん、本当に凄い量が僕の機内の中に、猛スピードで入って来るぅ」
ポッポと熱を感じる携帯電話君、震える様なソレを感じるゴリ子とクリ美はさっさと終わりやがれと、無我の境地に至ったジュデ男を煙たく思う。
「やっぱり毎日入れたり抜いたりしてると、あんなもんでもサイズが変わるんだねー。スッと入るけど先代のケーブル、根元がヤワヤワでぐらついてて、ヨレヨレっぽかったもの」
「うん。やっぱりガッチリ硬くないとな、そこが肝心。こいつだってすーぐ柔になるよ!フンッ」
二人が憎々しげに話をしていると、持ち主がタオルを頭に被り戻ってきた。気がついた携帯電話君は、いそいそと、液晶を光らせ合図を送る。
「ふぅぅ、あ。やっぱ速いのか? ケーブル変えたら」
ひょいと持ち上げられ、じっと数秒。見つめられる坊っちゃん。何のことはない、虹彩認証でロック解除の設定なのだが……。
――、あの時、初めて瞳を登録したときに…、
携帯電話君は瞬間、その瞳にロック・オン♡
――、それから、ずぅっと! 一緒。
ふぉぉんとなりながら、ロック解除を果たす。スクロールする人差し指の熱を画面に感じると、要望に沿ったページを光と共に開く。
「うん。充電良い感じ」
スッ、スッ、スッ。
下から上、下から上、下から上に動く指の腹。
秘めやかに感じる携帯電話君。
――、ううーん。それにつけても邪魔なのが、ゴリ子!
ダイレクトに指先の感触を思う存分、味わいたいのだがその権利は、なよやかな液晶画面を身を挺して守る事を、一族の掟として教え込まれたゴリ子のモノ。
(ゴリ子、邪魔)
(はあ? 坊っちゃん、何を考えてるの? この人族、言っちゃ悪いけれど手脂何気に多いのよ! 私が居ないと、坊っちゃんのツヤッツヤな液晶画面が、指紋でベタベタと汚れてしまうわ)
『手脂! 指紋でベタベタに汚れる』
このワードを聞きその恩恵を受けるゴリ子に、激しい嫉妬を覚える。
――、僕の全てを縦横無尽に、ベタベタにしてほしい! 貴方の手脂で!
持ち主にゾッコンな携帯電話君、タップをしたりスクロールをし、返信を送る彼のコロコロと変わる表情を、ブルーライトの光を少しばかり甘くし、うっとりと眺めている。
手の中で大切にされ幸せなのだが。
――、クリ美が邪魔、バッグから感じられないもん。 せっかく反対側の手のひらに乗ってるのに。 右も左も全て僕の為に捧げているのに。
(クリ美もいらねぇ)
(はあ? 坊っちゃん、衝撃に弱いんだよ? わかってる? 言っちゃ悪いけれどこの人族、結構そそっかしいし!)
そう伝えた直後!
(うきゃぁん!)
(坊っちゃん!)
(坊っちゃん!)
(ふぇぇえぇ!)
グイッと、ケーブルが引っ張られ、勢いよく充電口から抜けたコネクター。空を舞ってポトリと落ちる。
(はうん、一気に力が抜けそう)
(坊っちゃん! ケーブル野郎! しっかりしてよ!)
(ククク、いい気味。出しっぱで、いい気分になってるからバチが当たったんだよ)
「あ! 充電してたんだっけ、いっけねぇ、引っ張って無理やり抜いちゃった」
ドキドキドキドキ。
「だ、大丈夫かな、勢いよく抜いちゃったけど」
キッチンに向かおうとした持ち主が、うっかりしたのが原因。充電口をしっかりと覗き込み確認をする。しゃがんでコネクターを手に取ると。
グッと。押し込む。
遠慮なく、グッと。
ポーン♪
殊更華やかに充電音が響いた。
「あ、大丈夫そう」
(いい声ねぇ、脂ギッシュだけど坊っちゃんが惚れてるから、仕方ないわね)
(やっぱりギッシュに差し込んで貰うのが、一番良いらしいもんな)
シュッ。コネクターを抜く。
再び鳴く。その声をうっとりと前面と背面が聴き取る。
自身の携帯機器がそのような事になっているとは、露にも気づかず、キッチンへと向かう持ち主。クルンとひっくり返し、再び充電口を確認。
「うん、気をつけよ。さてと、更新されてるかな 」
――、ふぇぇ! なんかそこを覗かれたら恥ずかしい。
数歩進む。独り用のテーブル、落とさぬ様にとスエットのポケットに入れ込み、冷蔵庫からビールを取り出すと椅子に座りページを開く持ち主。
「うーんと。あ!あった。ここのサイト有名なんだけど、広告バナー? エロが多いよなぁ、エロゲーにエロコミ、最近BLコミ? この絡みそうなんだよなぁ、試し読みって、なんでやねん」
読みたい小説を探し、人差し指が液晶画面の上を動く。その毎に、携帯電話君やその周辺雑貨達から発せられる、何かがバーチャルに影響を与え、引き寄せているような、R18の世界の広告。
――、ああ出ちゃった。ご褒美インは終わりなのかぁ。あの中、もんわり暖かくて、なんか良い感じなんだよなぁ。もう! ゴリ子って、ほんと邪魔!
サワサワと微かに感じる指の腹、動く小さな熱に反応する液晶、時折タップする度にカチンと当たる爪の感覚。全てをダイレクトに感じて、ゴリ子の言う手脂塗れになりたいと。
そんな秘めやかな熱をしっかり感じ取り、破廉恥かつ尊い、生産性は全く皆無、そこにあるのは究極の愛のみ。等と云う妄想ストーリーが、大展開されるゴリ子とクリ美。
携帯電話君は今宵も切なくブルーライトの光を、やんわりと愛しの持ち主に向かい放つ。
「ホント、エロ多いよなぁ、ここの広告バナー」
終わり♡
お読み頂きありがとうございました。