異世界 転移
「ここは、どこだ?」
何処までも続く闇。
暗いはずなのに自分の体は真昼の様にくっきりと確認する事が出来る。
ふと彼は思い至る、先程階段を転げ落ちてからの記憶がないことを。
「そうか、俺は死んで・・・・・・これが異世界転生ってヤツか!」
『全然違います。』
突如何者かの声が頭に響く。
「え?」
『全然違います。』
それは感情の起伏に乏しい抑揚のない声で彼の妄想をスッパリと否定してきた。
「違うって異世界転生じゃないってことか!?なら俺はただ死んだだけなのか!?」
『いえ、死んではいません。ただ・・・』
彼は死んではいないという言葉に胸をなでおろしつつ続く言葉を待つ
『ものすごく気持ち悪い体勢で転んだせいで奇跡的にこの空間に入り込んできました。』
「気持ち悪いって何それ!?」
『すごくキモかったです。』
「死んでないのは良かったけど!キモイとかそういうこと聞いているわけじゃない!ここは何処なんだ!?」
彼は、キモイと言われ深く傷ついたがまだ何も分かっていないので謎の存在に質問を投げかける。
『神の領域・・・貴方が心で望んでいるように異世界への転移も可能ですが、正直地球に戻ることをお勧めします。』
「ふぁっ!?マジで異世界に行けるのか!なら転移一択だろ!」
『いえ・・・貴方が思っているほど異世界は楽ではありませんしチート(笑)な能力をもらえるなんてことはありませんよ。』
「・・・どういう事だ?」
謎の存在の言葉は、彼の描く異世界の常識とあまりにもかけ離れているので言葉慎重に確認する事にした。
『まず地球人には魔力がありません。だから魔法は使えません。後天的には得られるかもしれませんが非常に条件が厳しいです。』
「ええ~」
『そもそもチートって何ですか?バカですか?そんなのは小説の中の話だけです。』
「そ、そんな!チート能力はもらえないし魔力もないってのか・・・」
『そうですね、転生ならその条件を覆せますが転生者が異常に強くなれるわけではありません。ああ、もちろん死んでいない人を転生なんかさせられませんよ。』
ますます地球に戻らざるを得ないネガティブな情報しか得られないが彼は諦めきれない。
「俺に何か才能は無いのか!?」
『才能のない人間なんていませんよ。(「可能性はありますか?」みたいなバカな質問ですね。たとえ0.00000000001%でも可能性は0ではありませんからね。才能も一緒です。)』
「神だっていうなら俺の才能が分かったりしないか?」
『チッめんどくs、さっさと帰ってほしいので教えますね。』
「今めんどくさいって言おうとしたよね!?」
『ええと・・・火魔法が、すごい!レベル3万5千もあります。』
「おお!!」
『普通の人は、レベル3万4千ぐらいですから十分すごいです。まあ、コックさんとか火を使う職業の
方々は50万ぐらいありますけどね。』
「・・・一気にやる気なくしたわ!他にはないのか!?」
『雷魔法が・・・おお!レベル100万です!流石パソコンの大先生ですね!』
「大先生は余計だ!やっと使えそうなのがきやがったぜ!」
『ちなみに、システムエンジニアの方は500万でハッカー・クラッカーの方々は、1000万を優に超えますね。』
「ちくしょー!バカにしてんだろ!」
『いえいえ、異世界の一般人はレベル100を超えることは滅多にありませんから十分に凄いんですよ。』
「結局、俺は魔法が使えるのか使えないのかどっちだ!?」
『魔力さえあれば使えますよ。ただ、レベルが高すぎて必要なMPが多すぎるのが難点なので実用には至らないというか・・・』
とにかく偶然つかんだこのチャンスをみすみす逃すのは正直もったいないし、ぶっちゃけ彼は異世界に行きたかった。とにかく魔法を使ってみたかった。
「分かった!使えるようになる可能性さえあればいい!俺を異世界に転移してくれ!」
『分かってないと思いますけどねー。お望みとあれば転移させましょう。(正直邪魔ですからね。)』
途端に彼の視界は闇から白一色に包まれる。
数瞬のうちに見知らぬ森へと移動していた。
「ここが異世界・・・確かにネットでも見たことがない植物がいっぱいあるし外国に飛ばされたってわけじゃないな。」
彼は、高揚する心を抑えまずは人里を目指すために周囲を見渡す。
「あれ?太陽が2個・・・いや3個ある!?北はどっちだ・・・っていうかここは北半球なのか南半球なのか?そもそも地図も無い知らない土地で方角を知ったところで意味があるのか!?」
途方に暮れ頭を抱えて悩みだすが、悩んでも仕方がないと思いなおす。
「まずは、できることを確認しよう。ステータス!」
レベル:1
HP :5
MP :0
力 :3
素早さ:3
体力 :4
知性 :3
魔力 :0
幸運 :4
スキル:火魔法3万5千、雷魔法100万
「マジで魔力がない、ちくしょぉおおおおおおおお!」
雄たけびを上げながら腕に力を籠めると凄まじい力が湧き上がってくる。
「まさかこれが・・・魔力!」
MPも魔力も0だが魔法が使えそうな気がする。
その時、茂みの向こうから全高4m程の巨大なイノシシの化け物が表れた!
おそらく先程上げた雄たけびが原因だろう。
「くっ!」
彼には使えそうな武器も何もない。
というか刀剣などの武器を持ったところで太刀打ちできるレベルには見えないし銃があっても勝てるのかも怪しいところだ。
「やるしかない!【ファイヤーボール】!!!」
右腕を突き出し心に浮かんだトリガーワードを唱えると魔法が発動した。
ゴウッ!!!
直径35mの凄まじい火球がイノシシを消し炭にし直線1kmを焼き払った。
しかし、彼も無事では済まなかった。
体内の魔力と生命力を絞りつくし大気の魔力を借りて奇跡的に魔法を発動させたがMPが圧倒的に足りず、魂すら残さず消滅してしまった。
その結果、転生すらできなくなってしまったのだ。
『やれやれ、だから地球に戻った方がいいって言ったんですがね・・・。』