午後7時
午後7時過ぎ、呼鈴が鳴った。夕飯も終わって、尚人さんはタバコを買いに出かけたところだった。
出ようか、と思ったけれど透明人間の私が出ても相手が困るだけだろう。そう思って知らないふりをしていたのだけれど、その人は勝手にドアを開けて入ってきた。
先日尚人さんと親しそうに話していた男の人だった。
「なんだ、尚人いねえの?」彼は遠慮せずに部屋の中へ入ってきた。
そして、私と目が合う。
「こんばんは」彼が言った。
やっぱり、私の姿が見えるのだろうか。しかし私は透明人間で、でも尚人さんには姿が見えるわけで…なんて考えて混乱してしまった。
気分を落ち着けようと深呼吸をする。そして、尋ねた。
「…私の姿が見えるのですか」
「うん?どういうことだよ」彼はテーブルの近くに座ると灰皿を引き寄せ、タバコに火をつけた。「見えるも何も、そこにいるからこうして話しができるんだろうが」
やっぱり、私の姿は見えるらしい。ただ、見えるから私が透明人間だということは信じられないらしい。
「名前は?」彼が尋ねた。
「…エリカ」
「俺は紘海。尚人とは高校生のときからの付き合いだよ。尚人から聞いてないか?」
私は首を横に振る。
「そっか…何も話してねえんだな」
ガチャ、とドアが開く音がした。尚人さんが帰ってきたのだ。
「紘海…」尚人さんは彼の姿を見て驚いた。「…来るときは連絡しろって言っただろ。あとここは禁煙だ」
「何で急にそんなこと言い出すんだかね。いつも連絡なしで来てても何も言わなかったのに」紘海さんはタバコを消した。「隠し事でもあるのか?」
尚人さんが紘海さんを睨む。
「…怒るなって」紘海さんは立ち上がり、玄関へ歩いていく。「また来るよ。じゃあな、尚人。…エリカも」
バタンと音がして、ドアが閉まった。