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恋心
「…どこにも…行かないでくれ」
そう言って抱きついてきた尚人さんの、声と体温が忘れられなかった。
「…リカ、エリカ」
呼ばれて私ははっ、とした。美穂ちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの、ぼーっとして。もう授業、終わったよ」
「あ、うん…」私は答えて、机の上の教科書とノートを片づけようとしたけれど。「ねえ、美穂ちゃん。人を好きになる、ってどんなこと?」
「え…?」
「私は尚人さんを好きだけど、それは家族としてなのかな。それとも…」
それとも、ひとりの男性として。
「エリカは、尚人さんのことを考えてどきどきする?」
「え?」
「その人のことを忘れられずに、ずっと考えてたりする?」
私は少し考えて、頷いた。
「じゃあエリカは、尚人さんのこと好きなんだよ」
好き。
私は尚人さんのことが、好き。
だったら、あなたが「行かないで」と言うなら、私はどこにも行かない。
私も尚人さんの側にいたいから。




