昔話2 土岐尚人
放課後は大抵、彼女と話して過ごした。
彼女はよく喋る子だった。俺は今度は「いい彼氏」を演じて、彼女の話に相槌を打った。
そしていつも18時くらいになると帰っていく。家族が遅くなるとうるさいのだそうだ。
俺は、誰も待っていないマンションへ帰る。テーブルの上には今日の夕食代が置いてある。母親は今日も男のところに泊まるのだろう。
父親は、顔も覚えていないほど会っていない。でも、俺がこうして高校へ行って生活できるのは彼の養育費のおかげだったから、感謝だけはしているけれど。
制服から私服に着替えて、冷蔵庫を開けた。中にはほとんど何も入っていない。
小学生の頃から、毎日コンビニの弁当が嫌で自炊をしていたのだが、最近はもう作っていなかった。それは。
俺は外へ出て、隣りの部屋の呼鈴を押した。すぐにドアが開いて、中から女の人が顔を出した。
「おかえりなさい、尚人くん」成美さんが言った。
「…ただいま」
「ご飯できてるよ、食べる?」
成美さんは結婚していたのだけれど、旦那さんは仕事を理由に、ほとんど帰りが深夜なのだそうだ。この当時の俺たちは寂しくて、こうして毎晩会っていたのだろう。今ならそう理解できる。
食後はふたり身体をくっつけて、話をする。ほとんど俺が話し、彼女は話を聞いて笑っている。
話が尽きると、俺は彼女にキスをする。そのままソファに彼女を押し倒し、彼女の身体に溺れる。毎晩これの繰り返し。
本当は彼女はこんなこと望んでいないだろう。彼女の望みは誰かに「おかえり」と言って一緒に食事をし、話を聞くところまでなのだろう。
けれど俺はどうしても、こうせずにはいられなかった。言葉だけじゃ足りない。触れ合って誰かの体温を感じていないと、寂しさを埋めることなんてできなかった。
彼女が両腕で、俺の頭を抱きしめた。それはきっと、彼女の優しさだろう。




