言い過ぎ
その夜尚人さんに、藤本さんが遊びに来てもいいか尋ねた。すると、尚人さんは喜んで、おもてなしをしないとな、と言った。
そして次の土曜日、藤本さんは遊びに来た。
「おじゃましまーす」藤本さんが言って、中に入る。
「いらっしゃい」尚人さんが言った。今日は休みなので家にいる。
「…尚人さんも、カッコいいね」藤本さんは小声で言った。
それから私の部屋で話したり、トランプやゲームで遊んだりした。
私は嬉しくて、つい笑ってしまった。そうしたら、藤本さんが私の頬を引っ張って、言った。
「そうやって笑ってたほうがいいよ。笑ってたら、かわいいし」
ふたりで遊んでいると、尚人さんが私たちを呼んだ。リビングに行くとお菓子が用意されてあって、3人でそれを食べた。
「あの…ひとつ、聞いてもいいですか?」ふいに、藤本さんが尚人さんに向かって言った。
「いいよ。何?」
「私、この子に聞いたんです。尚人さんとこの子は血のつながりはないって。そして…この子はお母さんに捨てられたって。本当なんですか」
「…本当だよ。残念なことだけれどね」尚人さんは言う。その顔に、表情は見えない。「若い君にこんなことを言うのは残酷だけれどね。実際、そういう親はいるよ。俺の母親もそうだったしね」
「…え?」
私は藤本さんの顔を見た。なんだか、泣きそうな表情だった。
どうしてそんな顔をするのだろう。今の私は、不幸なんかじゃないのに。
「ーーそーんな辛気くさい話をされても楽しくないよねえ、美穂ちゃん」
3人以外の声が別の方向から聞こえて、私はそちらを見た。紘海くんだった。
「お前…聞いてたのか」尚人さんが呆れたように言った。
「お前、若い子にそんな希望もないこと言っちゃダメだろ」紘海くんは構わず、尚人さんの隣りに座る。
「あ、あの…」入れ違うように藤本さんが立ち上がった。「私、帰ります。今日は、ありがとうございました」
藤本さんは帰っていった。私のほうは見なかった。
「…お前のせいだぞ」紘海くんが尚人さんに言った。
「…そうだな。少し、言い過ぎたかもな」
尚人さんが元気をなくしたように見えたので、私は彼の顔を覗き込んだ。尚人さんはそれに気づいて笑った。
「大丈夫」尚人さんは私の頭に手をのせた。