表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明人間  作者: 野良
16/28

言い過ぎ

 その夜尚人さんに、藤本さんが遊びに来てもいいか尋ねた。すると、尚人さんは喜んで、おもてなしをしないとな、と言った。

 そして次の土曜日、藤本さんは遊びに来た。


「おじゃましまーす」藤本さんが言って、中に入る。

「いらっしゃい」尚人さんが言った。今日は休みなので家にいる。

「…尚人さんも、カッコいいね」藤本さんは小声で言った。


 それから私の部屋で話したり、トランプやゲームで遊んだりした。

 私は嬉しくて、つい笑ってしまった。そうしたら、藤本さんが私の頬を引っ張って、言った。

「そうやって笑ってたほうがいいよ。笑ってたら、かわいいし」


 ふたりで遊んでいると、尚人さんが私たちを呼んだ。リビングに行くとお菓子が用意されてあって、3人でそれを食べた。

「あの…ひとつ、聞いてもいいですか?」ふいに、藤本さんが尚人さんに向かって言った。

「いいよ。何?」

「私、この子に聞いたんです。尚人さんとこの子は血のつながりはないって。そして…この子はお母さんに捨てられたって。本当なんですか」

「…本当だよ。残念なことだけれどね」尚人さんは言う。その顔に、表情は見えない。「若い君にこんなことを言うのは残酷だけれどね。実際、そういう親はいるよ。俺の母親もそうだったしね」

「…え?」

 私は藤本さんの顔を見た。なんだか、泣きそうな表情だった。

 どうしてそんな顔をするのだろう。今の私は、不幸なんかじゃないのに。

「ーーそーんな辛気くさい話をされても楽しくないよねえ、美穂ちゃん」

 3人以外の声が別の方向から聞こえて、私はそちらを見た。紘海くんだった。

「お前…聞いてたのか」尚人さんが呆れたように言った。

「お前、若い子にそんな希望もないこと言っちゃダメだろ」紘海くんは構わず、尚人さんの隣りに座る。

「あ、あの…」入れ違うように藤本さんが立ち上がった。「私、帰ります。今日は、ありがとうございました」

 藤本さんは帰っていった。私のほうは見なかった。

「…お前のせいだぞ」紘海くんが尚人さんに言った。

「…そうだな。少し、言い過ぎたかもな」

 尚人さんが元気をなくしたように見えたので、私は彼の顔を覗き込んだ。尚人さんはそれに気づいて笑った。

「大丈夫」尚人さんは私の頭に手をのせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ