友達3
朝、目覚まし時計が鳴って、私は目を覚ました。そして、ぼんやりした頭で考えた。今日は学校へ行く日。
起き上がって顔を洗って制服に着替える。支度が整うにつれて、私はドキドキしてきた。
会社に行く尚人さんと一緒に、家を出る。今日は尚人さんが学校まで送ってくれる。
尚人さんは歩きながら「無理しなくていいからな」と声を掛けてくれたけど、私は何も言うことができなかった。
学校の正門に着いて、尚人さんと別れる。同じ制服を着た生徒達が昇降口に吸い込まれるように入っていく。
私もその流れにそって、昇降口に入る。下駄箱で靴を替え、教室へ向かう。
階段を上って、2年4組の教室のドアを開ける。中から賑やかな声が聞こえる。
私の姿を見て、一瞬話し声がやみ、すぐにひそひそ話が始まる。
やっぱり私はここにいるべきではないのではないか、そう思った時。
「二ノ宮さん」
呼ばれて顔を上げる。藤本さんがこっちに駆け寄ってくる所だった。
「おはよ。…ちょっとこっちに来て」
挨拶を返す間もなく、手を引かれて教室の後ろに連れていかれる。
「…昨日の人、あの人が“尚人さん”なの?」手を離して藤本さんが言った。
私は首を横に振る。「あの人は…紘海くん。尚人さんの友達」
「そうなの…」藤本さんは少しほっとしたようだった。「カッコよかったよね。よく二ノ宮さんの家に来るの?」
私は頷く。
「そう。じゃあさ、今度遊びに行っていい?」
「尚人さんに聞いてみないとわからないけど…多分大丈夫だと思う」
「うん。じゃ、よろしくね」そして藤本さんは少し黙る。やがて、話しにくそうに切り出した。「あのさ…“尚人さん”って二ノ宮さんとどんな関係なの?」
「え?」
聞かれた私は固まる。そんなこと考えたこともなかった。
「だって、お父さんでもお兄さんでもないんでしょう?親戚の人?」
私は首を横に振る。尚人さんとは血のつながりはない。お母さんから「いらない」と言われた私のそばにいてくれる人だ。
そのことを藤本さんに話したけれど、うまく伝わったかどうかわからない。朝のホームルームが始まって、それ以上の説明はできなかった。
そしてそれ以上、藤本さんも聞かなかった。
けれど、彼女は一日中私のそばにいてくれた。だから、あんなに怖かった学校が、少しだけ、怖くなかった。