余談
尚人さんと一緒にまた暮らすことになって、アパートを引っ越すことになった。
というのも、尚人さんが私の年齢を知って驚いたからだ。
「…14才?」夕食を一緒に食べているときに、尚人さんが言った。
「はい」
「小学生かと思った…え、じゃあ学校は?」
「一度も行ったことがありません」
「……」
次の日、尚人さんから引っ越しをする話を聞いた。なんでも、今のアパートは寝室がひとつしかなく、男と女が一緒に暮らすにはそれぞれ部屋が必要、とのこと。私は部屋の片隅に寝る場所さえ貰えれば充分なのだけれど。
そして私達は、新しいアパートへ引っ越した。
「尚人ー、いるかー?」
午後7時半、呼鈴も鳴らさずに、紘海さんが家に入ってきた。
「勝手に入ってくるな、っていっつも言ってんだろ」尚人さんが言う。
「いーじゃん、どうせ俺以外誰も来ないだろ」紘海さんはテーブルにつき、置いてあった缶ビールを開けた。「エリカも、元気にしてたか?」
私は頷いてから言った。「紘海さんは?」
「エリカ、こいつにはさん付けしなくていい」尚人さんが言う。
「え?じゃあ…紘海くん?」
「そんな風に呼ばれたことないから、新鮮だな」紘海くんはテーブルにあったピザに手を伸ばす。「つーか、尚人。なんで俺に引っ越すこと教えてくれなかったんだ?」
「こんな風に勝手に来てほしくないからだ…何でお前ここの住所知ってんだよ」
「前のアパートの大家さんに教えてもらった」
「大家のおばあちゃん…」尚人さんが顔を伏せる。
「あのおばあちゃん、人がいいからな。すぐ教えてくれたよ」紘海くんは笑う。「そういえば…エリカは来週から学校に行くんだって?」
「うん…」私は頷く。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だって。嫌なところだったら辞めてくればいいんだから」
「おい!悪いこと教えるのはやめろ!」尚人さんが言った。
そんなふたりを見て私は笑った。ふたりは高校からの友達らしい。
私にも、こんなお友達ができたらいいな。そう思った。