透明人間
私は透明人間だ。
だからこうして路上に座りこんでいても誰も気づかない。家に帰らなくても誰も心配しない。人々は私の目の前を通り過ぎていくだけ。
生まれた時からそうなのだから、寂しいなんて感情は、私の中にはない。
一日中ぼーっと人の流れを眺めていて、もう夕方になってしまった。そろそろ帰ろうか、と立ち上がった私の目に、ひとりの男の人が写った。
こっちをじっ、と見ていた。
どうしてだろう。私の姿は誰にも見えないはずなのに。
しかし男の人は、どんどんこちらへ歩いてくる。
「どうしたの?」男の人が言った。
私に話しかけているのだろうか。だけどそのことが信じられず、私は振り返った。誰もいない。
「大丈夫?ずっと座ってたけど、具合悪いの?」
彼にはずっと前から私のことが見えていたようだ。でも、どうして?私は混乱して、走って逃げた。
人混みをかき分けて走って、ようやく足を止める。息を整えながら彼のことを考える。どうして私の姿が見えたのだろう、と。
もしかして、世界中で彼にだけ、私の姿が見えるのだろうか。
それは変な気持ちで、居心地が悪くて、恥ずかしかった。