荒れ狂う聖女
そのときである。不意に入口の方で大きな音がした。
バァン!
「!?」
「入るわよ。アシマ」
見ると、入口の扉が荒々しく開かれ、マルグレーチェが入ってくるところだった。シャルンガスタ皇女殿下は血相を変える。
「なっ……ここは皇族以外立ち入れぬ場所! どうやって中へ!? 見張りは何をしているのです!?」
「え!?」
僕は耳を疑った。ここって、皇族専用の浴室なの? 何でそんなところに、僕が通されているのだろうか。
一方、マルグレーチェは僕達の方に近づくと、皇女殿下に答えた。
「アシマの従者だと名乗り、通さないと後でどうなっても知らないと言ったら、快く通していただけました。それよりも皇女殿下。地位と権力を笠に着てアシマと親睦を深めようなどとは、少々悪辣過ぎるのではございませんか?」
「何ですと!? 誰が悪辣ですか! 無礼な口を利くと容赦しませんよ!」
「これは失礼いたしました。ともかく、高貴な皇女殿下が卑しい獣使いの世話をするなど言語道断でございます。そんな役目は、その辺の聖女にでもさせれば十分。というわけで、後は私に任せて、どうぞお引き取りくださいませ」
そう言うとマルグレーチェは僕の右隣りに回り込み、シッシッと皇女殿下を追い払う仕草をした。皇女殿下は出て行くどころか、僕の左側に来て対抗する姿勢を見せる。
「御身分をお考え下さい! 皇女殿下には皇女殿下の務めがあるはず!」
「黙りなさい! 誰のお世話をしようとわたくしの勝手! 全ての決定権はわたくしにあるのです!」
あろうことか二人は、僕を間に置いた状態で揉み合いを始めた。座っていた僕は彼女達の体に左右から頭を挟み込まれる形になり、身動きが取れなくなる。
「むぐぐっ! ふ、二人とも落ち着いてください!」
「でも……」
「しかし……」
「あ、後は一人でできますから、二人ともこの辺で帰っていただくというのはどうでしょうか……?」
「「駄目に決まってるじゃない(ですか)!」」
僕の発言は却下された。そればかりか、二人はお互いを投げ飛ばそうと揺さぶりをかける。
「えいっ!」
「このっ!」
こんな硬い床で転倒したら大変だ。僕は二人を支えようと手を伸ばした。だが支えきれずに、僕は仰向けに倒れる。受け身を取って頭を打たずに済んだのも束の間、同体となって倒れてきた二人が僕に覆いかぶさってきた。
「あっ!」
「ああっ……」
「むぐぐぐっ!」
横に並んだ二人の胸に鼻と口をふさがれ、僕は危うく窒息死しかけたのだった。




