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洗われるスライム

「アシマ様。こんなにたくましいお背中をされていたのですね……」

「お、恐れ入ります……」


人の背中を流すことに慣れていないせいか、シャルンガスタ皇女殿下はあちらこちらに動いた。僕の後ろだけでなく、いきなり真横に回り込んできたりする。それだけならまだしも、距離が近くなりすぎて、皇女殿下の体の、前に張り出した部位が肩や背中に当たってきた。


「ひっ……」

「動かないでください!」


柔らかい感触から逃れようと体を傾けると、鋭い声で咎められてしまった。やむなく背筋を垂直に保っていると、一層強めに当たってくる。


「で、殿下……少し近うございませんか?」

「そうでしょうか? わたくしはこれが普通だと思いますが……」


離れてくれる気配はなかった。それどころか、背中を流すだけだったはずなのに、皇女殿下は次第に僕の前の方へ移動してくる。


これ以上は、まずい……


「で、殿下!」

「どうなさいました?」

「きょ、恐縮ですが、ポルメーのことも洗ってやってはくださらないでしょうか……?」

「まあ……ポルメー様を?」

「はい……ポルメーは身を挺して皇帝陛下をお護りする功を立てました。何卒(なにとぞ)……」


人によっては、スライムのような不定形の魔物に嫌悪感を示すこともある。しかし、皇女殿下は以前普通にポルメーを撫でていたから、きっと大丈夫だろう。これ以上皇女殿下に洗ってもらうことに不安を覚えた僕は、ポルメーに代わりを務めさせることにした。


「ふふっ。かしこまりました。ポルメー様、どうぞこちらへ……」


皇女殿下は、笑って僕の申し出を受け入れた。ポルメーは手桶から這い出し、皇女殿下の下へ近づく。皇女殿下はポルメーにお湯を静かにかけて、その表面を手で撫でさすった。


「PUUU……」

「ありがとうございます、殿下……ポルメーは果報者だね。もったいなくも皇女殿下に洗っていただけるスライムなんて、世界広しといえどもお前だけだぞ」

「まあ、アシマ様ったら……」


気持ち良さそうに鳴くポルメーをからかうと、皇女殿下は照れたように微笑んだ。殿下は続けて僕に言う。


「とは申しましても……此度(こたび)の功の第一は、やはりアシマ様です」

「えっ……あの……」

「わたくしを賊の手から救い出したのみならず、父上の皇位を奪おうとする宰相の陰謀まで、命懸けで阻止されたのですから。明日の朝議で、父上は必ずや、アシマ様に爵位をお授けになることでしょう」

「…………」


皇女殿下の言葉を聞き、僕は黙り込んだ。

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