浴室の皇女様
「うわあ……」
浴室に通された僕は、その豪華さに圧倒されていた。磨かれた、真っ白な石の板で床や壁ができていて、周囲には高級そうな彫刻も並んでいる。
もしかしたら、いや、もしかしなくてもマリーセン王宮の浴室より贅沢に作られているだろう。もっとも、マリーセン王宮の浴室には入ったことないんだけど……
「は、入ろうか……」
「PUU……」
腰にタオルを一枚だけ巻いた僕は、肩に乗ったポルメーと一緒に中に進んだ。まず手桶に湯船のお湯をくんで、そこにポルメーをつからせる。
「どう、湯加減は?」
「PUU……」
どうやら満足そうだ。安心した僕は、椅子に腰を下ろした。
そして、後頭部に結った髪をほどいて洗い始める。思えば、王都で刑場に潜入したときに砂で汚して以来、髪はろくに洗っていなかった。身体の方も同じだ。追放されてからいろいろあり過ぎて、ろくに洗う暇もなかった。
「ふう……大変だったねえ」
「PUU……」
そのとき、扉が開いて、誰かが入ってきた。
「えっ?」
「失礼いたします」
「で、殿下!?」
見ると、シャルンガスタ皇女殿下だった。侍女も連れずに一人だけやってきた殿下は、まっすぐこっちに近づいてくる。僕は慌てて殿下から顔を背けた。
「アシマ様、どうなさいました?」
「いや、あの……」
皇女殿下はもちろん裸ではなかったが、薄い肌着のようなものを身にまとっているだけだった。今にも透けて見えてしまいそうで、とてもじゃないが直視できない。
「そ、それよりも殿下は、こちらに何用で……?」
「はい。アシマ様のお背中を流しに参りました」
「えっ……? ど、どうかお許しを。殿下にそのようなことさせられません……」
あまりの畏れ多さに、何とか辞退しようとした僕だったが、皇女殿下は顔を寄せて迫ってきた。
「いいえ。アシマ様はわたくしや父の命を救った功労者。これぐらい当然です」
「し、しかし……」
「お嫌ですか? わたくしに背中を流されるのは……」
「い、いや、そういうことではなく……」
「思えば、わたくし共リーラニア皇室が至らないせいで、アシマ様には多大なご迷惑をおかけしました。嫌われてしまったとしても、無理のないこと……」
皇女殿下は悲しそうな顔をする。今にも泣きそうだ。そんな風にされては、もう断れなかった。
「ううう……お、お願いします……」
「はいっ!」
一瞬で笑顔に戻った皇女殿下は、持ってきたタオルをお湯にひたし、僕の後ろに回って背中を流し始めたのだった。




