人事は揉めるよいつの日も
「無論、王宮テイマーとして復職もさせるぞ。先のリーラニアとの戦では、お主に大分助けられたことだしのう。これからも存分に腕を振るってもらわねば」
「…………」
僕は少し、考え込んでしまった。クナーセン将軍の申し出は確かにありがたい。クビと追放を取り消してもらえば、何もかも元通りだ。
だが、どうにも嫌な予感がした。僕は声を低めて言う。
「将軍、お気持ちは嬉しく思います。ですが、摂政殿下におかれましては、何か腹に一物おありの御様子。下手にわたくしをかばいたてると、将軍に災いが及ぶやも知れません」
「そうと聞いては、ますます放ってはおけぬ。摂政殿下が何故お主を追い出したいのか、その真意を問い質さねば。国に功ある者を、皆が納得できる理由無くして追放しては、兵の士気にも関わる」
「将軍……」
「後程知らせを寄越す。ここで待っておるが良い」
そう言うと、将軍は再び馬にまたがり、騎士達を率いて走り去ってしまった。
「将軍! お気を付けて!」
僕はその後ろ姿に向かって叫んだ。やがて騎馬の集団は、角を曲がって見えなくなる。
気が付くと、ポルメーが僕の足元に来ていて、不安そうに鳴いた。
「PUUU……」
「きっと大丈夫だよ。将軍を信じて待とう」
僕はポルメーを抱え上げ、門の中へと入った。
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やがて王宮に到着したクナーセンは、早速国王と摂政に拝謁を願い出る。しばらく待たされた後で、クナーセンは謁見の間へと通された。
跪き、頭を垂れるクナーセンに、摂政が声を掛ける。
「クナーセン将軍。予定にない謁見であるが、いかなる了見で申し出たのか?」
クナーセンは、顔を上げて答えた。
「国王陛下、並びに摂政殿下のお時間を取らせたこと、深くお詫び申し上げます。されど、何分火急の用件にございますれば」
「火急の用件だと? 一体何だ?」
「摂政殿下にお尋ね申し上げます。王宮テイマー、アシマ・ユーベック卿を解任し、王都からの追放刑に処したとは、誠でございますか?」
「いかにも。それがどうしたというのだ?」
「ユーベック卿に、いかなる落ち度がございましょう? 何卒お考え直しくださいませ。今ならば、まだ間に合いまする」
「越権であるぞ。王宮の人事は、軍人が口を出すものにあらず」
「口出しなどとは滅相もございません。軍としての要望を申し上げたまでにございます。思いますに、殿下はかの者の功績を御存じないのでは? それを説明させていただければ……」