信じようと信じまいと
「…………」
サーガトルスは黙ったまま話を聞いていた。僕は続ける。
「寝返りの報酬は、伯爵の位。僕はその申し出を受けたよ。ユーベック家は代々、貴族の最底辺の准男爵で、夢みたいな話だったからね」
「ハッ! いささか骨のある奴だと思っていたが、爵位で転んだか! 浅はかな!」
僕の出まかせを聞いて、嘲笑うサーガトルス。だけどすぐに思い直したようで、こう言った。
「いや待て。それはおかしいのではないか? 貴様が誠に皇女を裏切って宰相に付いたのなら、俺と戦う必要はないはずだが……」
「まあ、聞いてよ」
僕はサーガトルスの言葉を遮って言った。
「宰相はね、僕に伯爵位だけじゃなくて、たくさんの賞金も出すと言ってくれたんだ。ある仕事と引き換えにね」
「その仕事とは?」
尋ねられた僕は、少し間を空け、勿体を付けてから話す。
「雷鳴術師、サーガトルスの抹殺」
「何だと……?」
サーガトルスの表情に、少し驚きの色が見えた。僕は続ける。
「おかしいと思わなかった? 隠れていた雷鳴術師が突然姿を現して皇帝を殺そうとしたら、たまたま居合わせたテイマーが、たまたま雷を避ける道具の作り方を思いついてそれを阻止。そんなこと、本当にあり得ると思う?」
「…………」
「僕は知ってたんだよ。あそこに雷鳴術師がいるって」
もちろんこれも嘘だ。やがてサーガトルスは言った。
「なるほど……確かにあのときの対応の速さ、俺の存在を知っていたとすれば納得が行く。されど……分からぬな。宰相は何故、俺を殺す必要があるのだ?」
「何故って……お前、自分で言ってたじゃないか。宰相に協力して皇帝を倒すのは、ただの退屈しのぎだって……」
「確かに言った。それがどうした?」
「考えてもみなよ。気晴らしのために政権打倒に協力する、大陸最強の魔道士を宰相はどう思うか。自分が権力を奪うときはいい。でも、奪ったあとは? いつ自分が襲われるか分からないと思っても、おかしくないんじゃない?」
「…………」
サーガトルスは、また黙った。そして口を開く。
「ははっ! そういうことか! 貴様を味方に付けた以上、もはや俺は用済みというわけだな! だが……」
「何?」
「一つ、大きな問題があるぞ。どうやって俺を倒す?」
「…………」
今度は僕が黙る。サーガトルスは言った。
「俺も貴様に、いいことを教えてやろう。貴様は俺との戦いが、先程ではなく、今朝から始まったと思っているのではないか?」
思ってないよ。僕は心の中でつぶやいた。
本日はもう一回投稿します。




