テイマーの出まかせ
僕はバルマリクを反転させると、宰相が吊るされた教会から距離を取り始めた。当然、サーガトルスは追ってくる。
「逃げても無駄だ! そのドラゴンが飛ぶよりも俺の方が速い!」
だろうね。僕はサーガトルスの言葉に構わず、教会から距離を取り続ける。
さあ、ここまでおいで。
サーガトルスは苛立ってきたのか、僕達を追い越して、前方斜め上に回り込んだ。
「いい加減にせぬか!」
よし。いい位置だ。僕は混乱したふりをして、バルマリクをジグザグに飛行させる。
「ひええっ!」
「大雷撃!」
再びサーガトルスの手から、雷が放たれる。僕はそれをかわしながら、吊るされている宰相の方をちらりと窺った。
「まだまだ行くぞ!」
追い討ちをかけるように、次々と放たれる雷撃。だんだん避け切れなくなり、バルマリクの翼が焼け焦げ始めた。
そしてそのたびに、僕は背後の宰相を振り返った。
やがて、サーガトルスは攻撃の手を止めて尋ねてきた。
「貴様……先程から何に気を取られているのだ?」
よし。こっちの思惑通りに疑問を持ち始めた。僕は動揺したふりをして、言葉を詰まらせる。
「うっ……そ、それは……」
「宰相だな? 何故貴様が宰相を気にしながら戦うのだ?」
「…………」
ここで、わざと黙り込む。しびれを切らして、サーガトルスは怒鳴った。
「答えぬか!」
「……ばれちゃった」
仕方ない、という表情を作って、僕は答えた。サーガトルスはさらに問い詰めてくる。
「どういうことだ?」
「もしかしたら……もう気が付いちゃってるんじゃない?」
「とぼけるな!」
「分かった分かった。言うよ」
僕はバルマリクをゆっくり進ませ、サーガトルスに近寄っていった。サーガトルスも構えを解き、僕が近づくのを待ち受ける。
十分近づいたとき、僕は体を乗り出すようにして言った。
「お前、宰相に騙されてるんだよ」
「何だと? どういう意味だ!?」
「宰相は今朝、僕達が帝都に着いたのを知った。その段階で、もう陰謀は隠せない、力ずくで帝位を奪いにいくしかないって腹を括ったみたいだね」
もちろん全部嘘である。宰相が僕達の到着を知ったのは、僕達が謁見の間に現れてからだ。でも、宰相が隠していたことにすれば、それはサーガトルスには分からない。
「……それで?」
サーガトルスに促され、僕は話を続ける。
「暗殺団の首領を倒した僕が敵のままじゃ、簒奪がうまく行くか分からないって宰相は考えたみたい。味方にならないかって、早速僕に使いを寄越してきたよ」




