謁見の間の外へ
始めからそういう発言はしていたけど、やっぱり見境はなしか。僕はサーガトルスの様子を窺った。本当に政治的な思惑があるとか、お金が欲しいとかではなくて、単純に戦闘を楽しみたいのだろう。
「とはいえ、むざむざ雇い主を殺させては、このサーガトルスの名が廃るというもの。それも面白くはない。ならば……」
サーガトルスは、失神した宰相の襟首を掴むと、片手で軽々と持ち上げた。そして何か短い呪文を唱えたかと思うと、その両脚が床からふわりと浮き上がった。
「「「おおお……」」」
それを見て、廷臣達がざわめく。
飛翔魔法か……
高位の魔道士の中でも、さらに一握りが使えるという飛翔魔法。それをサーガトルスは使えるようだった。さすがリーラニア最強というだけはある。
「ふん」
空いている手を、謁見の間の入口に向けてかざすサーガトルス。すると、入口の扉の部分だけ、光の筋がなくなった。結界が一部解除されたのだ。
「先に行って待っているぞ。アシマ・ユーベック。後から来るがいい」
そう言うとサーガトルスは、扉を開けて、宰相を引きずりながら宙を飛んで外に出ていく。
受けて立つしかないな。僕は腹を括った。ここで追わずに宰相を取り逃がせば、カルデンヴァルトへの侵攻を止めることがほぼ絶望的になる。さらに言えば、宰相が自分の派閥を集めて蜂起することで、リーラニア帝国に内乱が発生するかも知れない。ここは追跡一択だ。
もちろん、危険は大きい。サーガトルスは、僕がバルマリクを連れてきていることを、当然知っているだろう。それでも外に誘い出すということは、空中戦でバルマリクに乗った僕に勝つ自信があるに違いない。
それを打ち破るには……僕は少し考えた。
やっぱり、あれで行くか……
「…………」
シャルンガスタ皇女殿下が、不安そうな顔で僕を見ていた。僕は殿下の側に駆け寄る。
「アシマ様!」
「殿下。行って参ります」
「どうか、御武運を……」
そう言って、僕の手を握り締める皇女殿下。僕は言った。
「御心配には及びません。必ず勝てます。皇女殿下の、お助けさえあれば……」
皇女殿下は、はっとしたように言う。
「わたくしは一体、何をすればよいのですか!? どうか仰ってください。何でもいたします!」
「それでは……」
僕は皇女殿下の耳元に顔を寄せて、あることを依頼した。それを聞き、皇女殿下はにっこりと微笑む。
「かしこまりました、アシマ様。どうかこの、シャルンガスタにお任せくださいませ」




