宰相しびれる
僕は片足で着地すると、ポルメーを縮めて剣を足元に引き寄せた。一方、サーガトルスは傷口に触れて出血を確認してから、まじまじと僕の顔を見る。
「…………」
普通に跳び上がっただけだったら、おそらく雷の全部は避け切れず、どれかが当たっていただろう。ポルメーの助けを借りて高く跳んだからこそ、無傷で反撃ができた。仕留め損なったのは残念だったけど……
「ククククク……」
突然、愉快そうに笑い出すサーガトルス。僕が怪訝そうな顔をして見せると、彼は言った。
「やはり大したものだ……このサーガトルスに斬り付けるとはな。戦いで血を流すのは、実に十年ぶりになるか……」
「そう……」
僕は足を動かし、サーガトルスとの距離をじりじりと詰めていった。次に攻撃されたとき、できるだけ反撃しやすくするためだ。
だが、サーガトルスは僕を手で制した。
「まあ、待て……」
「?」
「貴様とやり合うのに、この檻は少々狭過ぎるようだ。場所を移そう」
「へえ……どこに行くって言うのさ?」
僕の質問にサーガトルスが答えるより早く、宰相が割り込んできた。
「待て! 待たんか!」
「何だ? 宰相」
「貴様、この謁見の間から出るつもりか!?」
「そうだが、それがどうした?」
「儂を置いてどこに行くと言うのだ!? 勝手な真似は許さんぞ! あの獣使いは、この部屋で仕留めるのだ!」
「どこで戦おうが、俺の勝手だ。好きにさせてもらおうか」
「な、何だと!? 貴様には高い金を払っておるのを忘れたか!? 儂の命令に従え!」
宰相が言うのも、もっともなことではあった。僕とサーガトルスがここからいなくなったら、残った廷臣や衛兵達が寄って集って宰相を仕留めにかかるだろう。それはサーガトルスとしても困るはずだが……
だが、サーガトルスは僕の心配をよそに、宰相めがけておもむろに雷撃を放った。
「黙れ。愚か者が」
「ぐぎゃあああああぁ!!」
まともに雷撃を受けた宰相は、ビクンと体を痙攣させ、その場に倒れた。床に転がってからも、煙を上げながらしきりに体を震わせている。ちらっと見た感じ、少しばかり失禁もしているようだ。
「フッ……最弱の雷でこのざまか……我ながら、情けない奴と手を組んだものだ」
「え……? いいの? 味方でしょ?」
僕が尋ねると、サーガトルスは笑って言った。
「ククク……言ったはずだ。こやつと手を結んだのは、退屈しのぎのために過ぎぬと……それを邪魔立てするなら、敵であろうと味方であろうと黙らせるまでよ」




