伸びるスライム
サーガトルスは、鼻で笑って答えた。
「理由など特にはない。強いて言うなら、退屈だったから、とでもなるかな」
「退屈?」
「貴様には分かるまい。リーラニア帝国最強とは、すなわち大陸最強。戦うべき相手もおらず、手持無沙汰な日々であった。宰相に手を貸して国をひっくり返しでもすれば、少しはこの退屈も紛れるかと思ったのよ」
「そんなことで……」
「雑兵を相手にして、一時の気晴らしにでもなればと思っていたが……何事もやってみるものだ。貴様のような強敵と巡り合えたのだからな。俺をがっかりさせるなよ」
「そう……お手柔らかに」
とりあえず、聞き出す情報はこんなところか。僕は前に飛び出した。
「はあっ!」
摂政の剣を抜いて、サーガトルスの首筋に斬りかかる。サーガトルスは横に跳んで、これを難なくかわした。
「剣筋はそこそこだが……俺の体を捉えるには今一歩だな。さて、次はこちらの番だ」
サーガトルスは両手を僕の方にかざした。その手が光り出す。
来るか……
僕は後ろに下がり、衛兵達の剣をポルメーでつないだ、例の避雷具を手にした。これを使えば、簡単に雷の餌食になることはない。
とは言え、何度も使えるというわけでもない。いくら雷撃の大部分が中の剣を通ると言っても、ポルメーにも少しは入ってしまう。喰らい続けていれば、そのうち参ってしまうのは明らかだった。
できれば、次のサーガトルスの攻撃に合わせた反撃で、決着を付けたい。
そう思ったとき、サーガトルスの手からいくつもの光球がゆっくりと放たれて、僕の周囲を囲んだ。
「!」
まずい。周囲から一斉に雷撃を放ってくるのか。これでは避雷具は使えない。僕はポルメーの形を元に戻し、床に落ちた衛兵の剣の上に丸まらせた。
「行くぞ! 神雷包囲撃!」
僕の下半身めがけて、光球から雷撃が放たれる。それより一瞬早く、僕はポルメーを踏み台にして空中に跳び上がった。同時にポルメーは縦に伸びて跳躍を補助する。ポルメーと一緒に跳んで雷を避けた僕は、着地する前に、サーガトルスに向かって足を蹴り出した。
「でやあっ!」
足の裏に付いていたポルメーは、さらに衛兵の剣をくっつけていた。ポルメーは蹴り出されて、長く伸びながらサーガトルスの方に飛んでいく。その先端には、もちろん衛兵の剣が付いていた。
「何!?」
思わぬ反撃に驚いたのか、サーガトルスの対応は少しだけ遅れる。避けはしたものの、剣の切っ先が顔をかすめ、頬から赤い血がしたたった。




