スライムと剣
僕は宰相やサーガトルスの後ろを回り、倒れた人達からあるものを回収していった。
「陛下、今一度申し上げます。何卒御退位を!」
「天下の諸侯が、そちを皇帝と認めると思うか?」
「御心配には及びませぬ。帝位はわたくしではなく、シャルンガスタ皇女殿下にお譲りいただければ結構。わたくしは殿下をめとり、皇配として政務を取り仕切りましょう」
「無礼な! 誰がそなたなどと!」
シャルンガスタ皇女殿下が叫ぶ。宰相は笑って答えた。
「はっはっは。殿下の御意思はお尋ねしておりませぬぞ。ああ、そうそう。もう一つ、申し上げる儀がございます」
「聞こうではないか」
「カルデンヴァルトへの攻撃は、既に命を下しましてございます。準備が整い次第、西部方面軍は越境してカルデンヴァルトの制圧にかかりましょう。手を伸ばせば取れる宝があるというに、これを捨ておくはまさに愚の骨頂……」
「……もしも余が退位せねばならぬとしたら、それは、そちを宰相に任じた罪によってであろうな」
「して陛下、お答えは?」
「余とて、帝位にしがみつくつもりはない。我が帝国を治める力があり、民の安寧を護りうる器の者ならば、位を譲ることを考えもしよう。されど……ガルハミラ候、そなたには無理だ!」
「皇帝陛下。御遺言しかと承りました。やれ」
「フッ……」
サーガトルスが皇帝陛下に向けて手を伸ばす。その手に火花が散り、光り始めた。
「父上!」
「来るな! シャルンガスタ!」
「死ね!」
今だ。僕は皇帝陛下とサーガトルスの間に割って入った。次の瞬間、サーガトルスの手から雷撃が放たれ、同時にドーンという轟音が響く。
「いやあああっ!」
皇女殿下始め、大勢の悲鳴が巻き起こった。白い煙が朦々と立ち込め、何も見えなくなる。
「む……?」
煙が晴れたとき、最初に異変に気付いたのはサーガトルスだった。僕は後ろにいる皇帝陛下を、ちらりと振り返る。陛下は真っ青な顔こそしていたものの、健在だった。
「「「おおお……」」」
驚きの声が上がる。顔を手で覆っていた皇女殿下は、無事な皇帝陛下の姿を見て安堵の表情を浮かべた。
「ああ……」
僕の手には、蛇のように細長くなったポルメーが握られていた。一方の端をサーガトルスの方に突き出し、もう一方の端を床に付けることで雷撃を反らしたのだ。もちろん雷が直撃したら、いくらポルメーでも死んでしまう。そうならないよう、衛兵達の剣を拾ってつなぎ、ポルメーの中に通して雷の通り道にしていた。




