老将軍見参
翌朝、僕達はこの家で最後となる朝食を摂った。買い置きの食材を残しても仕方ないので、人間三人とバルマリク、ポルメーで食べ尽くす。
朝食を終えると、帳簿のような、万一戻って来られたときにあった方が良い物を箱詰めして庭に埋めた。それ以外のものは悉く放置。持ってけ泥棒だ。
もう、やるべきことはない。僕はハーバルとザガスに退職金を渡した。二人とも、事情が事情だからと受け取るのを渋ったが、僕は半ば強引に押し付けた。
いよいよ最後。僕達は表門から出て家を後にする。
「旦那様、どうかお体にお気を付けて……」
「旦那、お達者で!」
「二人とも、元気でねーっ!」
ハーバルとザガスの姿が見えなくなるまで、僕は手を振って見送った。
さて、僕も行くか。
と、その時である。二人と入れ違いに、馬に乗った騎士が十数騎、近づいて来るのが見えた。
お? 何だ? 摂政の気が変わって僕を捕まえに来たかな?
そういうことなら、一丁揉んでやるか。いや、無駄な戦いをする必要もない。バルマリクに乗ってさっさと逃げてしまおう。
そう考えた僕だったが、先頭に見知った顔の老人がいるのを見て思い止まった。そのままその場で、騎馬が来るのを待ち受ける。
「アシマよ! ここにおったか!」
「これは……クナーセン将軍閣下」
クナーセン将軍。つい先日まで続いていたリーラニア帝国との戦で鉄壁の防衛線を構築し、王国の守護者と呼ばれた名将である。王宮ではテイマーとして軽く見られていた僕を取り立て、獣達が戦場で活躍できるよう計らってくれたのも、このクナーセン将軍だ。おかげで王宮獣舎は、少しだが予算を増やしてもらえた。
リーラニア帝国と仮の休戦条約が結ばれてすぐ、将軍は僕達を率いて王都に戻ったのだが、こんなところで会うとは予想外だった。
「将軍、何故ここに?」
将軍は馬を降り、僕に近づいて言った。
「昨夜お主が大通りの真ん中で、皆に別れを告げていたと耳にしてのう。聞けば王都を追放になったというではないか。それで急ぎ様子を見に来たのじゃ」
「面目次第もございません……」
僕は将軍に、摂政から追放を言い渡されたときのことを話した。
「何ということじゃ……」
将軍は眉をひそめる。そしてしばらく何か思案していたが、やがて口を開いた。
「良かろう。儂から摂政殿下にお願いして、追放は取り消していただく」
「ええっ!? 将軍、それは……」
「心配するでない。このおいぼれに任せておけ」
そう言って、将軍は胸を叩いた。




