内通者の名を挙げる
皇帝陛下は、宰相を見て尋ねた。
「ガルハミラ候。何か申し開きはあるか?」
「陛下! これは讒言にございます!」
宰相は焦った様子で、護衛隊長を指さして言う。
「この者は己の罪を少しでも軽くせんがため、わたくしめにありもせぬ罪を着せております! わたくしめが逃亡や偽証を指図したなど、何の証拠がございましょう!? 全てはこの男一人の証言に過ぎませぬ。そのようなものをお取り上げになって臣下を疑うは、暗君のなさることにございますぞ!」
「では、証言をされているのはお一人ではないと申し上げたら?」
僕が宰相の弁明に口を挟むと、宰相は目を剥いた。
「何だと……?」
「アシマよ。それはいかなる意味だ?」
皇帝陛下に問われ、僕は答える。
「恐れながら、此度の企てに加わり、シャルンガスタ皇女殿下に不敬を働かんとしたお方が、他にもおられます」
「して、その者の名は!?」
「…………」
僕はすぐには答えず、廷臣達をはばかるように周囲を見回した。しびれを切らし、皇帝陛下が怒鳴る。
「余の命じゃ! 遠慮はいらぬ! はっきりと名指しいたせ!」
「ははっ!」
僕は畏まって答えた。
「陛下の御命とあらば、申し上げるより外にございません。そのお方とは、外務大臣、テーゼラー卿にございます!」
「何と!」
「テーゼラーだと!?」
皇帝陛下と宰相が驚き、廷臣達もどよめいた。
「誠か!? 誠にテーゼラー卿までもが……」
「はっ。わたくしめがカルデンヴァルトを出立する直前に、自白されましてございます」
自白は僕の出まかせだが、外務大臣が怪しいのは本当だった。
カルデンヴァルトを出発する前、僕は皇女殿下のお付きの人達に北寄りの経路を、外務大臣に南寄りの経路を伝えていた。
後は、僕達を阻止したいだろうリーラニアのドラゴン部隊が、南北どちらに寄っていたかを確かめれば、講和反対派への内通者がいるかどうか判断できる。
北に寄っていればお付きの人達が、南に寄っていれば外務大臣が怪しくなる。どちらにも寄っていなければ、少なくともお付きの人達や外務大臣は、内通していないということになる。
カルデンヴァルト上空で空気の薄さに慣れている間に、僕はテイムしたワシの一部を国境に沿って飛ばし、どこにドラゴンが集まっているか捜索させた。結果は、南側に集結と出る。外務大臣への疑いが濃くなったというわけだ。そのことは、ワシの一羽に手紙を持たせて辺境伯にも知らせたから、今頃は厳しい監視が行われているだろう。




