護衛隊長の自供
引っかかったのは、宰相だった。
護衛隊長は鎧と兜を着けている。一撃で確実に命を奪おうとしたら、首筋を斬るか刺すぐらいしかない。誰か味方の魔道士を潜ませておいて、強力な攻撃魔法で甲冑ごと、という手もないではないが、皇帝陛下が近くにいて巻き添えにしかねない状況で、それは考えにくかった。
なので、僕はポルメーに命じて、護衛隊長の首の周りをぐるりと護らせていた。透明なポルメーが体を薄くして貼り付けば、近づいてよく見ない限り分かりにくい。
もちろんそれでは、攻撃の威力を完全に殺すことはできないので、斬り付けられば怪我はする。でもここで、マルグレーチェを連れてきていたことが生きた。一瞬で絶命さえしなければ、治癒魔法で助けることができるのだ。
あのとき僕は、護衛隊長の首を押さえて血を止めるふりをして、マルグレーチェの手元を隠していた。治癒魔法を使っていることが周りから分からないようにだ。傷がある程度ふさがったところで、護衛隊長の耳元に顔を近づけ、こうささやいた。
「助けてやる。だから僕が呼ぶまで死んだふりをしているんだ。いいね?」
護衛隊長がほんの少しだけ首を動かして頷いたので、僕は立ち上がり、さっきのように宰相に問いかけた。もしも、ここに優れた回復術師がいると知っていたら、宰相ももう少し慎重になっていたかも知れない。そこを見越して、僕はあえてマルグレーチェを、みんなの前で紹介しなかった。
宰相は、護衛隊長が完全に死んだと思って油断したのだろう。あらぬ暴言まで吐いたので、僕はそれをたっぷり聞かせてから護衛隊長を呼んだ。殺されかけた上に侮辱までされて、護衛隊長は宰相に愛想を尽かしたようだ。
僕は護衛隊長に尋ねた。
「皇女殿下が襲われたときに逃げ出したのは、宰相閣下の指図でございましたか?」
「そうだ……カルデンヴァルトで行列が襲われるから、抵抗せず撤退するように言われていた。さらにその後、リーラニア領に戻ってからは、マリーセンの大軍に襲われ、皇女殿下が殺害されたと触れ回るようにとも……」
それを聞いた皇帝陛下は、顔を怒りに歪めて問う。
「今の話、誠であるか!?」
「はっ!」
護衛隊長は、深く頭を垂れて答えた。
「全て偽りはございません。この期に及び、命長らえようとは思いませぬ。首は陛下に差し上げます。されど、わたくしをこのような末路に追い込んだ者が、のうのうと生き延びるは口惜しい話。何卒正しくお裁きください!」




