宰相の企み、とうとう明るみに出る
僕はゆっくりと立ち上がり、宰相に言った。
「宰相閣下に、お尋ね申し上げます」
「何じゃ、今更……」
宰相は呆れたように言う。僕は姿勢を正して尋ねた。
「将軍クナーセンは、リーラニア帝国軍の皆様方の勇猛果敢なることを、舌を尽くして褒め称えておりました。賊に恐れをなし、背中を見せて逃げ出す者など、いるはずがないと……宰相閣下におかれましては、誠に護衛隊長殿が、賊から逃亡したとお考えですか?」
「ふん、何を言うかと思えば……確かに、我が帝国軍の精強さは世界に冠たるものだ。だが、数多おるリーラニア軍人の全員が全員、忠勇にして剛胆というわけではない。中にはいかんともしがたい臆病者もおる。それだけのことよ!」
「何と! 並み居る忠勇な方々を差し置き、よりによって土壇場で怖気付くような御仁に、皇女殿下の護衛を委ねたと言われるのですか!?」
「何だ? 儂に任命責任があるとでも言いたいのか? 言っておくが、皇女殿下の護衛の人選にまで、儂は関与しておらぬぞ。はてさて、この中の誰が、この愚か者に任を与えたのやら……」
そう言って宰相は、立ち並ぶ廷臣達を見回した。僕は黙ったまま、宰相に言わせておく。
「…………」
「この役立たずは、実力もない癖に、世渡りだけは上手であったのじゃ。マリーセンとの戦でも、ろくに戦いもせず逃げてばかりおったわ。大方、此度は将軍の誰ぞにでもうまく取り入って、殿下護衛の任を受けたに違いない。事によっては、賄賂でも送ったかも知れんな。後程、この痴れ者に任を下した者にも、しかるべき罰を……」
宰相に言うだけ言わせた後、僕は尋ねた。
「只今の宰相閣下のお言葉、いかにお聞きになりますか……? 護衛隊長殿!」
「「「?」」」
一同が怪訝な表情になる。続いて、護衛隊長の体が動き出すと、大きなざわめきが起こった。
「なっ……!」
宰相の驚きは、とりわけ大きいようだった。僕は護衛隊長に近づいて背中を支え、体を起こさせてやる。護衛隊長は床に跪いた姿勢になってから、口を開いた。
「宰相閣下……お話が違うではありませぬか!」
「き、貴様! 生きて……」
「皇帝陛下への報告が済めば、報酬を賜り、昇進もさせていただくお約束のはず! それが何故、かような辱めを受けた上に、命まで奪われねばならぬのです!」
「…………」
何も言えず、顔を真っ青にする宰相。僕は、いや僕達は、黒幕が口封じのために護衛隊長を殺そうとすると考えて、あらかじめ手を打っていた。




