スライム縦横無尽
「恐縮でございますが、皆々様、少々お下がりくださいませ」
僕が声をかけると、廷臣達や衛兵達が退き、横たわる護衛隊長の周りに場所が出来た。僕は護衛隊長に近づくと、両手でポルメーを差し出す。
「な、何をする気だ……?」
仰向けになった護衛隊長が、怯えた目でこちらを見る。僕は護衛隊長の甲冑の胸の上に、ポルメーをそっと乗せた。
「PUU!」
「「「…………」」」
全員が見守る中、ポルメーは形を変えて広がっていき、続いて甲冑の隙間から中へと入っていく。
「くそ! 止めろ! この獣使いめ……ひっ!? ひゃああああ!」
突然、護衛隊長が素っ頓狂な声を上げた。甲冑の中に広がったポルメーが、脇や背中をくすぐり始めたのだ。
「ひいっ! ひいいいい! やめっ……うひゃあああああ!!!」
護衛隊長は床を転がり、どうにかくすぐりから逃れようとした。だが、手を縛られていて甲冑を脱げないので、甲冑の中に入り込んだポルメーをどうすることもできない。
「うひいっ! ひゃははああぁ!!」
苦し紛れに、護衛隊長は立ち上がって走り出そうとした。だが、足先にまとわり付いたポルメーの一部が邪魔をして、派手に転倒する。
「あああぁ!!!」
謁見の間に、悲鳴と甲冑の鳴る音が響き渡る。護衛隊長はなおも床を転がった。
「止めてくれえ! ぎゃはははははっ!!」
屈強な軍人が涙とよだれを垂れ流してのたうち回る様子は、仕掛けた僕が言うのも何だが、この世のものとは思えなかった。皇帝陛下はじっと成り行きを見つめていたが、廷臣達や侍女達の何人かは、見るに堪えないといった様子で顔を背けている。
このポルメーを使った拷問は、元々カルデンヴァルトで逃亡兵を尋問するために、僕が考えていたものだった。あのときはマルグレーチェが突然怒り出したのでお蔵入りになったが、今ここで日の目を見たというわけである。
「ひゃははあぁ! 助けてくれえ!!」
護衛隊長の悲鳴は、ますます高らかに響き渡る。
さて、そろそろか。
僕は一歩下がると、護衛隊長ではなく、周りに立つ廷臣達をそっと見回した。
この拷問の目的は、護衛隊長に黒幕の名前を吐かせることではない。この場にいる人達に、護衛隊長が黒幕の名前を吐くかも知れないと思わせるのが狙いだ。
もしも、この中に黒幕がいるのなら、護衛隊長が白状する前にと、何かしら手を打とうとするはず。僕はそう予想していた。
さあ、誰が動く? 僕はポルメーにくすぐりを続けさせながら、じっと待ち構えた。




