スライム登場
「今の話は誠か!?」
皇帝陛下が護衛隊長を詰問する。問い詰められた護衛隊長の方はというと、顔面蒼白になって小刻みに震えており、何も言い返そうとしなかった。言い逃れをしても無駄だと分かっているのだろうか。
「誰か!」
「「「はっ!」」」
数名の衛兵が、皇帝陛下の呼びかけに応じて集まってくる。皇帝陛下はさらに命じた。
「この者を捕えよ! 厳しく取り調べ、シャルンガスタの護衛を放棄した理由を白状させるのだ!」
「「「御意!」」」
「お待ちくださいませ!」
衛兵達が護衛隊長を捕えようとしたとき、僕は前に出て跪いた。皇帝陛下が問う。
「アシマよ。いかがした?」
「陛下が御所望とあらば、百官の皆々様も御出席の今この場にて、事の次第を詳らかにして御覧に入れまする」
取り調べによって、護衛隊長が黒幕の名前を白状し、関係者が一網打尽に逮捕されるなら言うことはない。だが、実際にそうなるという保証はなかった。むしろ、黒幕が手を回して護衛隊長の口封じをしてしまう可能性の方が高いだろう。そうさせないためには、今ここで黒幕の名を吐かせるのが一番だ。
「ほう。それは耳寄りな話であるな」
皇帝陛下が関心を示すと、宰相は慌てた様子で止めに入った。
「陛下! これは帝国軍の不祥事にございます。その取り調べを他国の者に委ねるは、帝国の威信に傷を付けかねないお振る舞い! 何卒取り調べは、我が手の者にお任せくださいませ!」
「我が娘の護衛に付けた者が、役目を捨てて逃げ出した! 帝国の威信は既に傷付いておる! 余の名声もだ! この期に及んで体面を重んじ、問題の解決を先送りにすれば、恥の上塗りとなろうぞ!」
「…………」
宰相の言い分を一喝した皇帝陛下は、僕に向かって言った。
「アシマよ! 余が許す! やってみるが良い!」
「ははーっ!」
平伏して返事をした僕は、立ち上がり、侍女達のさらに後から入ってきたマルグレーチェを招いた。マルグレーチェの手には、霧を吹き終えたポルメーが乗っている。ポルメーは一声上げ、僕の手の上に飛び移った。
「PUU!」
「陛下。護衛隊長殿の手を縛るようお命じください」
「うむ。やれ!」
「「「御意!」」」
衛兵達は護衛隊長を取り押さえ、後ろ手に縛りあげた。護衛隊長は床を転がってうめく。
「ぬうう……」
「では、始めさせていただきます。陛下や皆々様におかれましては、お聞き苦しい点もあるかと存じますが、何卒御容赦くださいませ」
そう言って、僕は陛下に一礼した。




