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広げられた装束

「たわけたことを申すな! マリーセンからの亡命者風情が帝国の(まつりごと)に口を出すとは、身分を(わきま)えぬにも程がある! 陛下! この者は陛下を惑わし、我が帝国を誤った道に進ませんとしております! 直ちに首を刎ね……」

「しからば!」


僕は宰相の言葉をさえぎると、おもむろに立ち上がって言った。


「陛下に講和のお願いはいたしませぬ。代わりに、マリーセンの者としてお尋ね申し上げましょう」

「何だと……?」


少し下がったところに立つ護衛隊長を、僕は見た。まさしくあの夜、カルデンヴァルトの森で逃亡兵の指揮を取っていた、あの男だ。


「先程、護衛隊長殿は、シャルンガスタ皇女殿下がマリーセン軍に首を刎ねられたと仰せでございました。しかるに、皇女殿下はかくの如く御健在であらせられます。ならば、首を刎ねられた皇女殿下とは、一体どなた様のことでございましょうか?」

「…………」


護衛隊長は、黙ったまま何も言わない。続いて僕は、皇女殿下に従ってきた侍女達の方を向いて頷いた。侍女の一人が進みでてきて、手に持っていた包みを床に置く。中身は、例の暗殺団の首領が着けていた覆面とマントだ。


侍女がそれを床に広げると、皇帝陛下が身を乗り出して尋ねた。


「それは一体何だ?」

「これなるは、皇女殿下のお命を縮めんとした不逞の輩が、身に(まと)っていた装束にございます。ご覧いただいての通り、マリーセン軍の軍装とは似ても似つきませぬ。護衛隊長殿はこの装束の者を見て、何故マリーセン軍とお思いになったのか。皇帝陛下の御前にて、納得のいく説明、これあるべしと存じます!」


言い終えた僕は、姿勢を正して皇帝陛下の反応を待った。皇帝陛下はしばらく思案してから、護衛隊長を指さして言う。


「……これはいかなることであるか!? 説明いたせ!」

「陛下! 戦場においては見間違いが多々起きるもの。あまり厳しくお問い詰めになられずとも……」


宰相が護衛隊長を(かば)おうとする。僕は言った。


「リーラニア帝国ほどの大国が、見間違いで他国との休戦を破棄し、兵を送ろうとしていたと?」

「ふん、何とでも……」


僕をあしらおうとする宰相だったが、それを皇女殿下が制した。


「お黙りなさい!」

「で、殿下……」

「シャルンガスタ。いかがした?」

「わたくしは見ていました。あの者は賊が現れるや、一戦も交えずに護衛の役目を捨てて逃げ出したのです! 戦場での見間違いなどありえません!」

「な、何と……」


皇帝陛下は、驚愕の表情を浮かべた。

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