主君と家来と、そのまた家来
確かに、国王陛下の言う通りだ。摂政が国の実権を握っている今、陛下の書付があるからと言って、僕がバルマリクやポルメーを連れて、大手を振って王都の外を歩けるとは限らない。
それでも陛下が僕に書付を渡すのは、いつまでも摂政の言いなりではないという気持ちの表れだろう。陛下は陛下なりに自分の思いがあって、摂政のやることには違和感を持っているのだ。
その意志を、陛下は僕に託された。
僕は頭を垂れて、書付を捧げ持つ。
「御恩は、決して忘れません」
…………………………………………
外まで出て見送ると目立つかも知れないということで、僕とハーバルは裏口のすぐ内側から陛下を見送った。陛下の馬車が去った後、裏門を閉めるハーバルに、僕は言う。
「ハーバル」
「はい。旦那様」
「こんな時間で悪いんだけど、ザガスと一緒に僕の部屋に来てくれない?」
「かしこまりました」
数分後、僕の部屋にハーバルと下男のザガスがいた。使用人はこの二人だけだ。そこで僕は初めて、追放の話をする。
「まさか、そのような……」
「一体何でまた……」
案の定、二人とも驚きを隠せない様子だった。特にハーバルは、僕の祖父の代からユーベック家に仕えてくれている。それがこんな形で終わりになって、やり切れないに違いなかった。
「旦那様には何の落ち度もないというのに……悔しゅうございます」
そう言って、目頭を押さえるハーバル。僕は、ハーバルの肩を抱いて慰めた。
ともあれ、二人にはこれからの生活がある。僕は二人に、明日中に知り合いの貴族に紹介して、雇ってもらえるよう頼むつもりだと告げた。
それを聞いて、ハーバルが言う。
「お言葉ですが、旦那様がお戻りになる可能性もあるのでは……? わたくし一人なりとも、この家に残ってはいけませんでしょうか?」
気持ちは嬉しかったが、僕がここに戻って来られるのかどうかは分からない。それに、摂政に睨まれて追放された者の家を守っているとなったら、何かしら災いがないとも限らなかった。
そう告げると、ハーバルは渋々といった様子で頷く。
「かしこまりました……しかし、この歳になって今更別の方にお仕えする気にはなれません。息子夫婦のところに身を寄せて、畑仕事でもしながら過ごしたく存じます。お戻りの暁には、どうかお知らせください」
「あっしも、日雇いでもして旦那の帰りを待ってますぜ」
「……ありがとう。戻ってこられたら必ず知らせるよ」
僕は二人と、固い握手を交わした。