宰相と少年の問答
「父上……確かに賊に襲われ、危ういところでございました。もう駄目かと思ったとき、あのお方が颯爽と現れて賊を討ち、わたくしの窮地を救ってくださったのです!」
そう言って皇女は、扉の脇に跪く少年を示した。
「おお……そなたがシャルンガスタの命の恩人か! 近う寄れ!」
「ははーっ」
皇帝の呼びかけに応じ、少年は立ち上がって歩み寄った。そして皇帝の前に、再度深々と平伏する。
「皇帝陛下に、拝謁いたします」
「面を上げよ!」
「はは……」
皇帝に命じられ、少年は顔を上げる。
「良くぞシャルンガスタを救ってくれた……恩賞を取らせようぞ! して、いずこの者じゃ? 名は何と申す?」
「恐れながら……わたくしめのことは、宰相閣下が良く御存知かと」
「?」
少年の答えに、皇帝は戸惑いの表情を浮かべた。
「ガルハミラ侯、そなたの知り合いか? あのように申しておるが……」
名を呼ばれた宰相は、気色ばんで皇帝に答える。
「へ、陛下! あれは世迷言にございます! このような小せがれに、わたくしめは会ったことがございませぬ!」
「誠に、知らぬと仰せでございますか?」
少年の問いかけに、宰相は怒鳴った。
「くどい! 知らぬと言ったら知らぬわ!」
「これは異なことを承るもの。つい先程、宰相閣下より皇帝陛下に御紹介いただいたではございませんか」
「…………」
宰相が黙り込む。そこで少年は姿勢を正し、皇帝の方に向き直って言った。
「改めまして。皇帝陛下、お初に拝謁の栄に浴します。宰相閣下の智謀によって王宮を追われし元マリーセン王国王宮テイマー、アシマ・ユーベックにございます!」
「な、何と……」
皇帝が目を見開き、廷臣達も騒然となった。そのざわめきが収まる頃合いを見計らって、少年は言葉を続ける。
「王都を追放されたのみならず、王国から追われる身となり、かくなる上はリーラニア帝国皇帝陛下のお慈悲にすがるより外なしと、この地を目指しましてございます。その途中、偶然にも皇女殿下の御危難に遭遇し、微力ながら助太刀申し上げた次第……」
「そうであったか……」
皇帝が頷く。宰相は吐き捨てるように言った。
「ハッ! そなたがアシマ・ユーベックであったか。顔を合わせるのはこれが初めてゆえ、分からなかったわ!」
「さようでございましたか」
「しかし、いかにして……」
「いかにして国境の封鎖を突破したのか、でございますか?」
「…………」
ふと口にした言葉の意味を少年に問い質され、宰相は再び黙り込んだ。
明けましておめでとうございます!




