陰謀渦巻く帝都
~ある人物Side~
リーラニア帝国、帝都ホリンズグルッフ。
ある日の朝。その帝都にある宮殿の一室で、一人の人物が配下の者から報告を受けていた。
「……以上が、先程届きました西部方面軍からの報告にございます。どうやら、昨日の日の出から日没まで、カルデンヴァルトとの境を越えて我が帝国領内に侵入した竜は、なかったようにございますな」
「ううむ……確か、キアラ・シャルンガスタ皇女は、竜を操るマリーセンのテイマーに連れられて戻ってくるという話であったな? 報告によれば、昨日の朝にカルデンヴァルトを発ち、我が軍の竜騎士隊を避け、南側より迂回して参るとのことであったが……」
「御意にございます、閣下。それゆえ、西部方面軍では南側に竜騎士隊を移動させ、確実に仕留めるべく待ち受けておりました。それが一日待っても現れる気配がなく、空振りに終わった次第にございます」
「ううむ……」
閣下と呼ばれた人物は、再度唸って腕組みをした。
「……そう言えば、皇女の暗殺を邪魔立てしおったのも、そのテイマーであったか」
「いかにも。暗殺団の長と正面からは戦わず、何やら詐術を用いて仕留めたとか……」
「ならば、こうは考えられぬか? そのテイマーが我らを欺き、南側より回ると見せかけ、手薄な北側、もしくは中央から帝国領内に侵入したのでは?」
「恐れながら、それはないかと……」
配下の者は、首を横に振った。
「何故だ?」
「南側に竜騎士隊を移動させたとは申せ、北や中央を全くのがら空きにしたわけではございません……加えて、地上の兵達の目もございます。カルデンヴァルトよりどこを通って帝国領内に侵入するにせよ、仕留めることはできぬまでも、西部方面軍の知るところとはなるはずでございます」
「そうか……」
“閣下”は少しの間沈黙し、何やら考える様子であった。やがてその口が開く。
「……どうやら、キアラ・シャルンガスタ皇女は、この帝都に戻ってきておらぬと見て良いようであるな」
「はっ。おそらく、我が竜騎士隊の姿を遠くから見かけ、恐れをなしてカルデンヴァルトに逃げ帰ったのではないかと……」
「よし。皇女護衛隊の隊長は、帝都に戻っておるな?」
「はっ。昨夜、秘密裏にドラゴンで帰還し、閣下の命を待っております」
「直ちに召し出せ。間もなく始まる朝議にて皇帝に拝謁させ、マリーセン軍による皇女殺害を報告させるのだ!」
「御意!」
配下の者は、慌ただしく一礼して部屋を出て行った。
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