いざ、リーラニア帝国帝都へ!
朝になった。出発の時だ。僕達は館の中庭に集まる。
用意された踏み台を登り、まず僕がバルマリクに乗った。続いてマルグレーチェが後ろに座る。
「皇女殿下。ドラゴンは尻尾の先が貴賓席ですので、そちらへ……」
皇女殿下をあらぬ場所に座らせようとするマルグレーチェ。殿下はそれを完全に無視し、僕の前に座った。
「チッ」
「……では、行って参ります」
「しっかり頼むぞ!」
「気を付けてな!」
「皇女殿下、万歳!」
クナーセン将軍に、辺境伯とその家来、さらに皇女殿下のお付きの人達が口々に叫ぶ中、僕はバルマリクを飛翔させた。館の上空から下のみんなに手を振った後、東へと向かう。
少し飛ぶと、マルグレーチェが「きゃー怖い」と言いつつしがみ付いてきた。
「マ、マルグレーチェ!?」
「私、高いところ苦手なのよ」
「えっ? そうだったっけ……?」
「そうよ。だからしっかりつかまらせて」
僕とマルグレーチェの体は、完全に密着していた。彼女のスライムが、僕の背中に当たって形を変えている……
「あ、あの、マルグレーチェ。もうちょっと隙間を……」
「きゃー怖い」
「…………」
聞き入れられる気配は一切ない。僕は沈黙した。
そのとき、皇女殿下が言う。
「アシマ様。わたくしの体を支えてください。落ちてしまいそうです」
「え? あ、はいっ」
僕は皇女殿下の細い腰に、両側から手を添えた。殿下は不満そうに言う。
「アシマ様は、わたくしの体を支える役目はお嫌ですか……?」
「い、いやっ! そのようなことは!」
「だったら……もっとしっかり支えてください」
「…………」
気が進まなかったが、僕は皇女殿下の腰を後ろから抱きすくめた。殿下は両手で僕の腕を抱え、腹部より上に移動させる。
「え?」
「これでしたら……」
満足そうに言う殿下。だが、僕の腕には乗ってはいけないものが乗っていた。これはまずい。
「で、殿下……」
「アシマ様、どうなさいました?」
「その、む、む……」
「む?」
「な、何でもございません……」
言えるわけが、なかった……
その間にも、バルマリクはリーラニアの方へと羽ばたいていく。まっすぐ東に向かって飛ぶと朝日が正面に来てまぶしいので、ちょっと北寄りの針路だ。
リーラニア帝都に行ったことはないが、大体の位置は分かる。上空に着けば、皇女殿下に案内してもらえるだろう。
誰かは知らないが、皇女殿下の命を狙った講和反対派も、そこにいるに違いない。
待ってろよ。
お前達の思い通りにはさせないからな!
いつも御愛読いただき、ありがとうございます。
今回をもちまして、第二章 辺境動乱編は終了となります。
次回より、第三章 帝都決戦編が開始いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします。




