侵攻に、備えて
「それでは、明朝出立いたします」
僕はみんなに向かって言った。バルマリクは、今日の午前中からずっと飛んで疲れている。さすがに、今からリーラニアに向かって飛ぶのは厳しい。
ついでに言うと、僕も少々寝不足だった。王都からジャールントに向かう森の中でイノシシを見張りに立て、みんなで少しだけ仮眠を取ったのだけど、それ以外は昨日から寝ていない。
僕の言葉に、辺境伯は頷く。
「うむ。くれぐれも気を付けてな……」
続いて僕は言った。
「それと、差し出がましいようですが……」
「?」
「首尾よく皇帝陛下に拝謁し、御納得を賜れれば良いのですが、そううまく事が運ぶとは限りません。万が一のときのために、お備えを……」
「確かにそうだ……ガルソン!」
「はっ!」
「兵を集め、戦の準備をせよ。何事もなく、講和が結ばれるなら良し。仮にリーラニアが再び攻めて参るのであれば、力及ばぬまでも戦おうぞ……」
「御意!」
さらに辺境伯は言う。
「王都にも、改めて注進をせねばならぬな。場合によっては、援軍を求めることになるやも知れぬと……」
「そのお役目、なにとぞ、それがしにお任せください!」
リーラニアへの使者に出ていた家臣だった。辺境伯が尋ねる。
「頼めるか?」
「はっ! リーラニア帝都への使いではお役に立てませんでしたが、必ずや国王陛下に拝謁し、カルデンヴァルトの窮地をお伝えいたします!」
「よし、任せたぞ」
「御意!」
家臣は立ち上がり、兵士達を連れて謁見の間を出て行った。それを見ていたクナーセン将軍が言う。
「では、儂は明日より、領内の砦でも見回らせてもらおうか。痛んだところでもあれば、修復しておかねばなるまい」
「そうしてくれるか。ありがたい……」
後はこっちの準備だ。僕はローグ・ガルソンに近づいて耳打ちし、あるものの調達を頼んだ。
「かしこまりました。明朝までに御用意いたします」
ローグ・ガルソンが頷く。僕達は明日に備えて休むため、解散することになった。
与えられた部屋に向かう途中、僕はシャルンガスタ皇女殿下に話しかけた。
「あの、殿下……」
「アシマ様、どうなさいました?」
「このような時間に恐れ入りますが、外務大臣閣下にお目通りできますか?」
「テーゼラー卿に?」
「はい。お願いしたいことがございまして」
「お安い御用です。では、こちらへ……」
僕は、皇女殿下の部屋へ招かれた。やがて、お付きの人が呼んできたのだろう。リーラニアの外務大臣が部屋に入ってきた。




