千金よりも重い金
小さなテーブルを挟んで向かい合っていると、やがて国王陛下が口を開いた。
「……余は、そなたに詫びなくてはならぬ。叔父上を止められなかった……」
「そんな陛下! 滅相もございません!」
「そなたが下がった後、余は叔父上に尋ねてみたのだ。何故そこまでそなたを辞めさせたいのか、辞めさせるにしても、王都から追放までせずとも良いのではないかと……」
「して、摂政殿下は何と?」
「王宮にテイマーなどおらずとも良い、王宮に汚らわしい獣共など要らぬ、などと申されていた……だが妙なのだ。余の知る限り、叔父上がそのように申されたことは、今までになかった。何故急にそのようなことを言い出されたのか……」
「うーん……」
僕は唸った。どうやら、僕に払う給金をケチるためだけに追い出したのではないらしい。もしかすると、僕か獣達が摂政殿下に、個人的な場で嫌な思いでもさせたのだろうか。心当たりは全く無いし、仮にそうなら僕にクビを言い渡したあの場で、何か言及してもおかしくなさそうなものだが……
「済まぬ。今の余は叔父上の操り人形だ。これ以上はどうすることもできぬ……」
国王陛下が頭を下げかけたので、僕は無礼を承知でテーブル越しに手を伸ばし、陛下の肩を押し止めた。
「お止めください!」
「……そうだ。そなたに渡すものがあった」
姿勢を正した国王陛下は、傍らにあった鞄から拳大の袋を出し、テーブルの上に置く。
「それは?」
「急なことゆえ、これしか用意できなかったが……何かの足しにはなるであろう。使うが良い」
「……?」
恐る恐る袋を開けてみて、僕は息を飲んだ。中に金貨が詰まっている。
「こ、こんなに……!」
「そう言えば、先程ドラゴンの吼える声がしたな。王宮のドラゴンか?」
「はっ……ドラゴンのバルマリクとスライムのポルメーが、どうしても部下達の言うことを聞かなかったので連れ出して参りました。陛下の財産に手をおかけし、申し開きのしようも……」
「……何か、書くものはあらぬか?」
「お、お待ちを!」
僕は立ち上がり、応接間の隅のクローゼットから紙とペンを持って来ると、テーブルの上に置いた。
陛下はペンを持つと紙の上に走らせ、一枚の書付を作る。
『王宮獣舎のドラゴン、バルマリクとスライム、ポルメーをアシマ・ユーベックに贈るものとする。 マリーセン国王 ジムギウス4世』
「こ、これは!?」
「今の余の書付など、大した価値もないであろうが……」
陛下は、自嘲気味に笑った。