表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/212

皇女様の申し出

少し間をおいて、辺境伯が僕に尋ねる。


「されど……今の話によれば、リーラニアの軍用ドラゴンが空中まで警戒しておるとのこと。そなたもドラゴンに乗って行くのであろうが、突破する(すべ)はあるのか?」

「ございます」


僕は、はっきりと言った。


「カルデンヴァルトとリーラニアの境は、南北に長く伸びております。リーラニアの国境守備隊も、その境全てを厚くふさぐことはできません。ゆえに、地形の険しい()()()空中を大きく迂回し、手薄なところからリーラニア領内に入ることは、不可能ではあるまいと存じます」

「ううむ……」


辺境伯が、また唸った。


「そこまで成算があると申すなら、一つ頼むとしようか……」


そのときだった。シャルンガスタ皇女殿下が前に進み出て僕を制した。


「アシマ様、お待ちください」

「殿下……?」


怪訝な顔をした僕に、皇女殿下は言う。


「他の者ならばいざ知らず、アシマ様であれば我がリーラニア軍の目を欺き、帝都に達することは簡単でございましょう。しかしながら、その後はどうなさいますか?」

「と、おっしゃいますと……?」

「講和反対派が、これほどまでに周到な準備をしているのであれば、おそらく帝都にも手を回しているに違いありません。アシマ様が帝都にお着きになっても、父上の下まではたどり着けぬはずです」

「…………」


皇女殿下の言うことももっともだった。確かに宮殿で追い返されるかも知れない。しかし……


「しかしだからと言って、このままでは……」

「わたくしに考えがございます。父上の下に証人を送るのです。父上にお目通り叶い、キアラ・シャルンガスタの無事と、マリーセンの皆様の無実をお伝えできる証人を、です」

「そのような証人になってくださる方が、おられるのですか?」

「おります。ただ一人だけ……」

「それは一体どなたでございますか? どうかお示しください」


問いかけた僕に、皇女殿下は微笑んで答えた。


「申すまでもありません。このわたくしです」

「えっ……?」

「アシマ様、どうかわたくしを、帝都までお連れください」


皇女殿下は僕の手を取り、顔をじっと見てきた。どう言うべきか分からずにいるうちに、皇女殿下のお付きの男性と女官が(ひざまず)いて言う。


「な、なりません、殿下!」

「姫様! それはあまりに危険でございます!」

「危険は承知の上です。今危険を冒さねば、戦は止められないでしょう。この火急の事態に我が身の安全を図り、座して眺めるようでは皇族の資格はありません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お、王族なのに権力や財力を笠に着て偉そうにしたり(元一般ピーポーの悪霊憑依なのに)、王族だからと所構わず断りもなしに魔法ブッ放したり、下々の者をつかって人間雛飾りをしたりしない、だと…… …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ