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届かない書状

「何……?」


辺境伯は、報告に来た兵士を驚いた顔で見た。僕達も見た。


どう考えても、使者がリーラニアの帝都まで行って帰ってくるだけの時間は()っていない。つまり、途中で引き返してきたのだ。


僕達は急いで地下室から上がり、謁見の間に入った。程なくして、使者となっていた辺境伯の家臣、そして使者に随伴していたであろう、数人の兵士も入ってくる。


「「「辺境伯様」」」


使者達が(ひざまず)くと、辺境伯は問いかけた。


「どうしたのだ?」

「そ、それが……リーラニア領内に入ったところ、帝都に続く街道は全て、リーラニア軍によって封鎖されてございました」

「なんだと……」

「地上の歩兵、騎兵のほか、空には軍用ドラゴンまで飛翔しており、帝都に向かわんとする者を追い返しておりました。わたくし共も、何とか迂回して進めぬものか、幾度となく試みましたが、無駄でございました……」

「ううむ……」


辺境伯が唸る。そして、クナーセン将軍が口を開いた。


「やはり、そうであったか……」

「クナーセン……」

「国境の守備隊も、講和反対派とやらに取り込まれていたと見える。シャルンガスタ皇女殿下の暗殺が不首尾に終わった場合に備えて、封鎖の準備を進めていたのであろう……」

「「「…………」」」


沈黙が流れた。


なるほど。僕は内心で頷いた。


向こうもなかなかやる。暗殺が成功すればよし、万一失敗しても、国境をふさいでおけば皇女殿下の無事とマリーセン軍の無実を伝える知らせは帝都に届かず、届くのは皇女殿下がマリーセン軍に殺されたという誤報のみ、というわけだ。


そして、リーラニアの講和反対派がその誤報を利用して休戦条約を破棄し、カルデンヴァルトへ再侵攻しようとするのは、もう誰の目にも明らかだった。


このままなら、またカルデンヴァルトは戦火に包まれる。このままなら……


僕は、使者となっていた辺境伯の家臣に近づいて尋ねた。


「失礼。皇女殿下の書状はお持ちですか?」

「無論、ここにございますが……」


使者は鞄から、二通の書状を取り出した。一通は皇女殿下の書いたものだ。


「こちらの書状は?」


もう一通の書状について尋ねると、辺境伯が答えた。


「儂からも、リーラニア皇帝に宛てて添え状を書いたのじゃ」


そういうことか。二通の書状を受け取り、僕は言った。


「わたくしが参ります。この二通の書状を、帝都のリーラニア皇帝陛下にお届けいたします」

「「「なっ……」」」


申し出ると、みんなは呆気に取られた様子だった。

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