敵情一部判明
しばらくして、どうにかマルグレーチェが落ち着いたので、僕はリーラニアの兵士に問いかけた。
「それで? 襲われたとき逃げた訳は?」
「……護衛の任務を放棄したのは、隊長の命令でだ。行列を襲う者が現れたらすぐに撤退してリーラニアに帰還するよう、リーラニアを出る前から命じられていた……」
「不安には思わなかった? いくら隊長の命令でも、皇女殿下の護衛を捨てて逃げ出したら、皇帝陛下のお咎めを受けるんじゃない?」
「……カルデンヴァルトにて、突然マリーセンの大軍に囲まれた。応戦するも力及ばず、皇女殿下は殺害され、我々は必死に包囲を突破して撤退した。リーラニアに戻ったらそう証言するよう、命じられてもいた。そうすれば、皇帝陛下のお咎めは受けぬと……」
「逃げ出すだけじゃなくて、嘘の証言まで……」
「それ以外のことは何も聞かされていない。本当だ……」
言い終えて、兵士はうなだれる。嘘を言っているようには見えなかった。
なるほど。向こうも馬鹿じゃない。末端の兵士には最低限の情報だけを与えておくことで、一部の者が逃げおおせなかった場合に備えていたのだろう。
でも、少しは相手方の思惑も分かった。クナーセン将軍がにらんだ通り、暗殺者集団とリーラニアの護衛兵は通じていた。それだけでなく、シャルンガスタ皇女殿下殺害の罪を、マリーセン側に着せようとしていたのだ。
「「「…………」」」
一同、声も出ない。とりわけ、ローグ・ガルソンの顔は青ざめていた。一歩間違えれば命を奪われていた上、皇女殿下殺害の犯人にされていたのだから当然だろう。
僕はリーラニア兵から離れ、辺境伯に向かって頷いた。辺境伯も「うむ……」と頷く。それを受けて、ローグ・ガルソンが部下の警備隊員達に指示した。
「こやつらを連れ出せ! 牢につないでおくのだ!」
「「「はっ!」」」
警備隊員達が、三人のリーラニア兵を引っ立てていく。
「アシマ……」
「ありがとう、マルグレーチェ。おかげで早めに情報を引き出せたよ」
出番のなかったポルメーを撫でて慰めながら、僕はマルグレーチェの手柄を称えた。あそこでマルグレーチェが激高していなかったら、尋問にもっと時間がかかったかも知れない。
「…………」
マルグレーチェは、顔を赤くしていた。
さて、これからどうしようか……
そのとき、一人の兵士が慌てた様子で地下室に駆け込んできた。
「も、申し上げます! たった今、リーラニアに向かった使者が戻って参りました!」




