スライムと膝小僧
「こ、これは殿下!」
もしかして、ドアのすぐ内側で聞き耳でも立てていたのだろうか。慌てて跪こうとした僕だったが、皇女殿下に手を握られて止められた。
「もう! アシマ様、一々跪かないでください! それよりも、逃げた兵を捕えたのですね?」
「そ、その通りでございます。尋問に立ち会われますか?」
「無論です。どうかお連れください」
皇女殿下はお付きの男性、そして、部屋にいた侍女一人を従えてついてきた。
地下室に行ってみると、辺境伯、クナーセン将軍、そしてマルグレーチェが既に揃っていた。部屋の周囲にはローグ・ガルソン始め警備隊の兵士が並び、警戒に当たっている。
森で捕まえてきたリーラニアの兵士三人は、縛られたまま部屋の中央に跪かされていた。彼らは入ってきた僕達、つまりは皇女殿下の姿を見て驚きの表情になる。
「皇女殿下……」
「皇女殿下の護衛をしていた、リーラニアの兵士だね?」
僕はリーラニア兵達の正面に回り、改めて尋ねた。兵士の一人が答える。
「……そうだ」
「皇女殿下の護衛という大任を賜りながら、どうして放り出して逃げたのか、聞かせてもらおうかな」
「それは……賊の数が多く、我らではとても敵わぬと思い……」
「見え透いた偽りを申すな!」
弁解を聞いた将軍が、声を荒らげた。
「賊に恐れを成して逃げ出すような弱兵を、リーラニア皇帝が皇女の護衛に付けるものか! 隠し立てすると為にならぬぞ!」
「…………」
将軍の恫喝に、黙りこくるリーラニア兵達。やっぱり、そう簡単に口は割らないか。
では、始めるとしよう。尋問の方法なら考えていた。僕は服の中に潜んでいたポルメーを呼び、手のひらの上に移動させる。
「アシマ、あんまり手荒なことは……」
マルグレーチェが心配そうに言う。彼女は先の戦で、敵味方問わず多くの兵士を治癒魔法で救い、聖女とまで崇められた女性だ。無用な暴力沙汰は見たくないのだろう。
「大丈夫だよ。そこまで惨いことはしないから」
僕はマルグレーチェに笑って見せ、ポルメーを兵士の一人に近づけた。兵士はうめくように言う。
「くっ、下賤な獣使いめ……何をする気だ!?」
それを聞いた皇女殿下が、僕に近づき、腕を取りながら言う。
「黙りなさい! わたくしの大切な方を侮辱することは許しません!」
「た、大切なお方……?」
「そうです」
「ま、まさか、この獣使いは皇女殿下の婚約者……?」
兵士が呟く。次の瞬間、その兵士の顔面にマルグレーチェの膝蹴りが炸裂した。




