宙吊り人間
「ううう……」
「くそっ……」
「お、おのれ……」
追い詰めたリーラニアの兵士は三人だった。暗殺者の首領のように自害はせず、うめいたり罵ったりするだけだ。
「捕縛してください」
「「「はっ!」」」
僕の指示で、カルデンヴァルト兵達が飛びかかっていった。リーラニア兵達はあっさり縄で縛られる。
「御苦労様でした。後は僕が連れて行きますから、皆さんは館にお戻りください」
「「「御意!」」」
カルデンヴァルト兵は街道に戻っていく。僕はリーラニア兵を縛った縄の端を、バルマリクの首につないだ。
「それっ!」
バルマリクに乗って飛び立つ。兵士達は空中に吊り上げられて悲鳴を上げた。
「うわああ!」
「ひいいっ!」
「助けてくれえ!」
ドラゴンに自分の意志で乗るならまだしも、無理やり吊るされるとやっぱり怖いものらしい。僕はちょっと意地悪をして、必要以上に高く飛んでやった。
「「「ひえええ!」」」
辺境伯の館の庭に降り立つと、ずっと待っていてくれたのか、警備隊長のローグ・ガルソンが数名の部下を従えて出てきた。
「ローグ・ガルソン殿!」
「おお……アシマ殿、本当にリーラニア兵共を捕えるとは! 只今、辺境伯様をお呼びして参ります!」
そう言うローグ・ガルソンだったが、もう夜半近くだ。僕は尋ねた。
「あの、辺境伯閣下はもうお休みなのでは……?」
「いいえ。アシマ殿が戻られたら、いつでも起こすよう命じられております。して、このリーラニア兵共はいかがなさいますか?」
「とりあえず、話を聞いてみたいと思います。どこか、尋問できる場所にお移し願えますか?」
「かしこまりました。おい、お前達!」
「「「はっ!」」」
「地下室にアシマ殿を御案内せよ! こやつらも連れて行くのだ!」
「「「御意!」」」
ローグ・ガルソンの部下達は、リーラニア兵の縄を持って館へと引っ立てていった。僕も続けて中に入る。
地下室に行く前に、僕は寄り道をさせてもらった。クナーセン将軍とマルグレーチェの部屋を訪れ、来てもらうことにする。さらにシャルンガスタ皇女の部屋に行ってみると、男性の付き人が外で寝ずの番をしていたので話しかけた。
「御無礼。たった今、逃亡兵を捕えて参りました」
「なんと! 誠ですか!?」
「これより尋問をいたします。つきましては皇女殿下に立ち合いのお伺いを……」
「し、しばしお待ちを!」
付き人がドアをノックしようとする。ところがその前に、ドアが勢い良く開いて皇女殿下が飛び出してきた。




