老人達の再会
山道を抜け、平地をしばらく進み、僕達は辺境伯の館に到着した。戦争でカルデンヴァルトに派遣されていたとき、僕もここを何度か訪れたことがある。
門を通ると、庭に数十名の兵士が並んでいた。シャルンガスタ皇女殿下を迎えるために出てきたのだろう。兵士達の中に立つ背の高い痩せた老人が、カルデンヴァルト辺境伯フェンラート二世だ。
馬車が止まり、まず皇女殿下のお付きの人が飛び降りた。お付きの人が階段を出し、その後から続々と降りて行く。僕は早めに降りようとしたのだが、皇女殿下に手を握られて止められたので、結局最後に彼女と一緒に降りることになった。
馬車を降りた皇女殿下の前に、辺境伯は跪く。
「皇女殿下! 此度の御危難、お慰めの言葉もございません。御身が御無事で、何よりでございました」
「危ういところを、こちらのアシマ様に救っていただきました」
皇女殿下が僕を辺境伯に紹介する。紹介といっても、僕は辺境伯と面識があるのだが。
辺境伯は僕の顔を見て、かすかに頷く。僕やクナーセン将軍がお尋ね者であることは、もう知っているのだろうか。
「辺境伯殿にお付けいただいた兵士の皆様も、良く戦ってくださいましたよ」
「もったいないお言葉にございます」
「あの、殿下……よろしいでしょうか?」
少々不躾だったが、僕は皇女殿下に発言の許可を求めた。彼女が頷いたので、僕は辺境伯に一礼して話しかける。
「辺境伯閣下、お久しゅうございます。本日はクナーセン将軍、マルグレーチェ嬢と共に罷り越しました」
僕が手を伸ばして示すと、下馬したクナーセン将軍とマルグレーチェが、こちらに歩いてくるところだった。辺境伯はそれを見て立ち上がる。
「クナーセン!」
「おお、フェンラート!」
将軍と辺境伯が抱き合う。二人は笑顔を浮かべていた。
「無事であったか……昨夜、王都から伝書鳩で知らせがあってな。そなたが死罪に処されかけたと聞き、気が気ではなかったのだ」
「心配をかけた……実は儂も、アシマに救われてな。王都から命からがら逃げてきたのじゃ」
「そうであったか……だが、ここに来たからにはもう心配はいらぬ。王都の者共に手出しはさせぬ故、好きなだけおるがよい」
「かたじけない……しばし宿を借りさせてもらうぞ」
それを見て、皇女殿下は満足そうに頷いた。
「どうやら、そちらの話は付いたようですね」
「これは殿下……御無礼仕りました。さあ、どうぞ中へ」
僕達は辺境伯の案内で、館の中へと入った。




